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第8章 「太った婦人」の逃走 2

「今年が最後のチャンスだ__俺の最後のチャンスだ__クィディッチ優勝杯獲得の」
選手の前を大股で往ったり来たりしながら、オリバーは演説した。

「俺は今年かぎりでいなくなる。二度と挑戦できない。グリフィンドールはこの七年間、一度も優勝していない。いや、言うな。運が悪かった。世界一不運だった__怪我だ__去年はトーナメントそのものがキャンセルだ…」
オリバーはゴクリと唾を飲み込んだ。思い出すだけで喉に何かがつかえたようだった。

「しかしだ、わかってるのは、俺たちが最高の__学校__一の__強烈な__チームだって__ことだ」
オリバーは一言一言に、パンチを手の平に叩き込んだ。
おなじみの、正気とは思えない目の輝きだ。

「俺たちにはとびっきりのチェイサーが三人いる」オリバーは、アリシア・スピネット、アンジェリーナ・ジョンソン、ケイティ・ベルの三人を指差した。
「俺たちには負け知らずのビーターがいる」
「よせよ、オリバー。照れるじゃないか」
フレッドとジョージが声をそろえて言い、赤くなるふりをした。
「それに、俺たちのシーカーは、常にわがチームに勝利をもたらした!
ウッドのバンカラ声が響き、熱烈な誇りの念を込めてハリーをじっと見詰めた。
「それに、俺だ」思い出したようにオリバーがつけ加えた。
「君もすごいぜ、オリバー」フレッドが言った。
「きめてるキーパーだぜ」フレッドが言った。

「要するにだ」オリバーがまた往ったり来たり歩きながら話を続けた。
「過去二年とも、クィディッチ杯に俺たちの寮の名が刻まれるべきだった。ハリーがチームに加わって以来、俺は、いただきだと思い続けてきた。しかし、いまだ優勝杯は我が手にあらず。今年が最後のチャンスだ。ついに我らがその名を刻む最後の…」
ウッドがあまりに落胆した言い方をしたので、さすがのフレッドやジョージも同情した。
「オリバー、今年は俺たちの年だ」フレッドが言った。
「やるわよ、オリバー!」アンジェリーナだ。
「絶対だ」ハリーが言った。

決意満々で、チームは練習を始めた。一週間に三回だ。
日ごとに寒く、じめじめした日が増え、夜はますます暗くなった。しかし、泥んこだろうが、雨だろうが、今度こそあの大きなクィディッチ銀杯を獲得するというハリーのすばらしい夢には一点の曇りもなかった。

ある夜、練習を終え、寒くて体のあちこちが強ばってはいたが、ハリーは練習の成果に満足してグリフィンドール談話室に戻ってきた。談話室はざわめいていた。
「何かあったの?」ハリーはロンとハーマイオニーに尋ねた。
二人は暖炉近くの特等席で、天文学の星座図を仕上げているところだった。

「第一回目のホグズミード週末だ」
ロンがくたびれた古い掲示板に張り出された「お知らせ」を指差した。
「十月末。ハロウィーンさ」
「やったぜ」ハリーに続いて肖像画の穴から出てきたフレッドが言った。
「ゾンコの店に行かなくちゃ。『臭い玉』がほとんど底をついてる」
ハリーはロンのそばの椅子にドサリと座った。高揚していた気持ちが萎えていった。
ハーマイオニーがその気持を察したようだった。
「ハリー、このつぎにはきっと行けるわ。ブラックはすぐ捕まるに決まってる。一度は目撃されてるし」
「ホグズミードでなんかやらかすほど、ブラックはバカじゃない」ロンが言った。
「ハリー、マクゴナガルに聞けよ。今度行っていいかって。つぎなんて永遠に来ないぜ__」
「ロン!」ハーマイオニーが咎めた。
「ハリーは学校内にいなきゃいけないのよ__」
「三年生でハリー一人だけ残しておくなんて、できないよ」ロンが言い返した。
「マクゴナガルに聞いてみろよ。ハリー、やれよ__」
「うん、やってみる」ハリーはそう決めた。

ハーマイオニーが何か言おうと口を開けたが、そのとき、クルックシャンクスが軽やかに膝に飛び乗ってきた。大きなクモの死骸をくわえている。
「わざわざ僕たちの目の前でそれを食うわけ?」ロンが顔をしかめた。
「お利口さんね、クルックシャンクス。一人で捕まえたの?」ハーマイオニーが言った。
クルックシャンクスは、黄色い目で小バカにしたようにロンを見据えたまま、ゆっくりとクモを噛んだ。

「そいつをそこから動かすなよ」ロンはイライラしながらまた星座図に取りかかった。
「スキャバーズが僕のカバンで寝てるんだから」
ハリーは欠伸をした。早くベッドに行きたかった。しかし、ハリーも星座図を仕上げなければならない。カバンを引き寄せ、羊皮紙、インク、羽ペンを取り出し、作業にとりかかった。
「僕のを写していいよ」
最後の星に、どうだっとばかりに大げさに名前を書き、その図をハリーの方に押しやった。

ハーマイオニーは丸写しが許せず、唇をギュッと結んだが、何も言わなかった。
クルックシャンクスは、ぼさぼさの尻尾を振り振り、瞬きもせずにロンを見つめ続けていたが、出し抜けに跳んだ。

おい!」ロンが喚きながらカバンを引っつかんだが、クルックシャンクスは四本足の爪全部を、ロンのカバンに深々と食い込ませ、猛烈に引っ掻きだした。
「はなせ!この野郎!」ロンはクルックシャンクスからカバンをもぎ取ろうとしたが、クルックシャンクスはシャーッシャーッと唸り、カバンを引き裂き、てこでも離れない。
「ロン、乱暴しないで!」ハーマイオニーが悲鳴をあげた。談話室の生徒がこぞって見物した。
ロンはカバンを振り回したが、クルックシャンクスはぴったり貼りついたままで、スキャバーズの方がカバンからポーンと飛び出した__。


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