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第18章 杖調べ 6

「ポッターにはあと一時間魔法薬の授業がある」
スネイプが冷たく言い放った。
「ポッターは授業が終わってから上に行く」
コリンの顔が上気した。
「先生__でも、バグマンさんが呼んでます」
コリンはおずおずと言った。
「代表選手は全員行かないといけないんです。写真を撮るんだと思います……」
「写真を撮る」という言葉をコリンに言わせずにすむのだったら、ハリーはどんな宝でも差し出しただろう。
ハリーはチラリとロンを見た。
ロンは頑なに天井を見つめていた。

「よかろう」
スネイプがバシリと言った。
「ポッター、持ち物を置いていけ。戻ってから自分の作った解毒剤を試してもらおう」
「すみませんが、先生__持ち物を持っていかないといけません」
コリンが甲高い声で言った。
「代表選手はみんな__」
よかろう!ポッター__カバンを持って、とっとと我輩の目の前から消えろ!」

ハリーはカバンを放り上がるようにして肩にかけ、席を立ってドアに向かった。
スリザリン生の座っているところを通り過ぎるとき、「汚いぞ、ポッター」の光が四方八方からハリーに向かって飛んできた。

「すごいよね、ハリー?」
ハリーが地下牢教室のドアを閉めるや否や、コリンがしゃべりだした。
「ね、だって、そうじゃない?君が代表選手だってこと、ね?」
「ああ、ほんとにすごいよ」
玄関ホールへの階段に向かいながら、ハリーは重苦しい声で言った。
「コリン、なんのために写真を撮るんだい?」
「『日刊予言者新聞』、だと思う!」
「そりゃいいや」
ハリーはうんざりした。
「僕にとっちゃ、まさにおあつらえ向きだよ。大宣伝がね」
二人は指定された部屋に着き、コリンが「がんばって!」と言った。

ハリーはドアをノックして中に入った。

そこはかなり狭い教室だった。
机は大部分が部屋の隅に押しやられて、真ん中に大きな空間ができていた。
ただし、黒板の前に、机が三卓だけ、横につなげて置いてあり、たっぷりとした長さのビロードのカバーがかけられていた。
その机のむこうに、椅子が五脚並び、その一つにルード・バグマンが座って、濃い赤紫色のローブを着た魔女と話をしていた。
ハリーには見覚えのない魔女だ。

ビクトール・クラムはいつものようにむっつりして、だれとも話をせず、部屋の隅に立っていた。
セドリックとフラーは何か話していた。
フラーはいままでで一番幸せそうに見える、とハリーは思った。
フラーは、しょっちゅう頭をのけ反らせ、長いシルバーブロンドの髪が光を受けるようにしていた。
微かに煙の残る、黒い大きなカメラを持った中年肥ちゅうねんぶとりの男が、横目でフラーを見つめていた。

バグマンが突然ハリーに気づき、急いで立ち上がって弾むように近づいた。
「ああ、来たな!代表選手の四番目!さあ、お入り、ハリー。さあ……何も心配することはない。ほんの『杖調べ』の儀式なんだから。ほかの審査員も追っつけ来るはずだ__」
「杖調べ?」
ハリーが心配そうに聞き返した。
「君たちの杖が、万全の機能を備えているかどうか、調べないといかんのでね。つまり、問題がないように、ということだ。これからの課題にはもっとも重要な道具なんでね」
バグマンが言った。
「専門家がいま、上でダンブルドアと話している。それから、ちょっと写真を撮ることになる。こちらはリータ・スキーターさんだ」
赤紫のローブを着た魔女を指しながら、バグマンが言った。
「この方が、試合について、『日刊予言者新聞』に短い記事を書く……」
「ルード、そんなに短くないかもね」
リータ・スキーターの目はハリーに注がれていた。

スキーター女史の髪は、念入りにセットされ、奇妙にかっちりしたカールが、角ばった顎の顔つきとは絶妙にちぐはぐだった。
宝石で縁が飾られたメガネをかけている。
ワニ革ハンドバッグをがっちり握った太い指の先は、真っ赤に染めた五センチもの爪だ。

「儀式が始まる前に、ハリーとちょっとお話ししていいかしら?」
女史はハリーをじっと見つめたままでバグマンに聞いた。
「だって、最年少の代表選手ざんしょ……ちょっと味つけにね?」
「いいとも!」バグマンが叫んだ。「いや__ハリーさえよければだが?」
「あのー__」
ハリーが言った。
「すてきざんすわ」
言うが早く、リータ・スキーターの真っ赤な長い爪が、ハリーの腕を驚くほどの力でがっちり握り、ハリーをまた部屋の外へと促し、手近の部屋のドアを開けた。

「あんなガヤガヤしたところにはいたくないざんしょ」
女史が言った。
「さてと……あ、いいわね、ここなら落ち着けるわ」
そこは、箒置き場だった。
ハリーは目を丸くして女史を見た。
「さ、おいで__そう、そう__すてきざんすわ」
リータ・スキーターは、「すてきざんすわ」を連発しながら、逆さに置いてあるバケツに危なっかしげに腰かけた。
ハリーを段ボール箱に無理やり座らせ、ドアを閉めると、二人は真っ暗闇の中だった。

「さて、それじゃ……」

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