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第9章 闇の印 1

「賭けをしたなんて母さんには絶対言うんじゃないよ」
紫の絨毯を敷いた階段を、みんなでゆっくり下りながら、ウィーズリーおじさんがフレッドとジョージに哀願した。
「パパ、心配ご無用」
フレッドはうきうきしていた。
「このお金にはビッグな計画がかかってる。取り上げられたくはないさ」
ウィーズリーおじさんは、一瞬、ビッグな計画が何か聞きたそうな様子だったが、かえって知らないほうがよいと考えなおしたようだった。

まもなく一行は、スタジアムから吐き出されてキャンプ場に向かう群衆に巻き込まれてしまった。ランタンに照らされた小道を引き返す道すがら、夜気やきが騒々しい歌声を運んできた。
レプラコーンは、ケタケタ高笑いしながら手にしたランタンを打ち振り、勢いよく一行の頭上を飛び交った。
やっとテントに辿り着いたときは、周りが騒がしいこともあり、だれもとても眠る気にはなれなかった。
ウィーズリーおじさんは寝る前にみんなでもう一杯ココアを飲むことを許した。たちまち試合の話に花が咲き、ウィーズリーおじさんは反則技の「コビング」についてチャーリーとの議論にはまってしまった。
ジニーが小さなテーブルに突っ伏して眠り込み、そのはずみに、ココアを床にこぼしてしまったので、ウィーズリーおじさんもやっと舌戦を中止し、全員もう寝なさいと促した。
ハーマイオニーとジニーは隣のテントに行き、ハリーはウィーズリー一家と一緒にパジャマに着替えて二段ベッドの上に登った。
キャンプ場のむこうはずれから、まだまだ歌声が聞こえ、バーンという音が時々響いてきた。
「やれやれ、非番でよかった」
ウィーズリーおじさんが眠そうに呟いた。
「アイルランド勢にお祝い騒ぎをやめろ、なんて言いにいく気がしないからね」

ハリーはロンの上の段のベッドに横になり、テントの天井を見つめ、ときどき頭上を飛んでいくレプラコーンのランタンの灯りを眺めては、クラムのすばらしい動きの数々を思い出していた。
ファイアボルトに乗ってウロンスキー・フェイントを試してみたくてウズウズした……オリバー・ウッドはゴニョニョ動く戦略図をさんざん描いてはくれたが、この技がどんなものなのかをうまく伝えることができなかった……ハリーは背中に自分の名前を書いたローブを着ていた。十万人の観衆が歓声をあげるのが聞こえるような気がする。ルード・バグマンの声がスタジアムに鳴り響いた。「ご紹介しましょう……ポッター!」

ほんとうに眠りに落ちたのかどうか、ハリーにはわからなかった__クラムのように飛びたいという夢が、いつのまにか本物の夢に変わっていたのかもしれない__はっきりわかっているのは、突然ウィーズリーおじさんが叫んだことだ。

「起きなさい!ロン__ハリー__さあ、起きて。緊急事態だ!」
飛び起きたとたん、ハリーはテントに頭のてっぺんをぶっつけた。
「どしたの?」
ハリーは、ぼんやりと、何かがおかしいと感じ取った。
キャンプ場の騒音が様変さまがわりし、歌声はやんでいた。
人々の叫び声、走る音が聞こえた。

ハリーはベッドから滑り降り、洋服に手を伸ばした。
「ハリー、時間がない__上着だけ持って外に出なさい__早く!」
もうパジャマの上にジーンズを履いていたウィーズリーおじさんが言った。

ハリーは言われたとおりにして、テントを飛び出した。すぐあとにロンが続いた。

まだ残っている火の明かりで、みんなが追われるように盛りへと駆け込んでいくのが見えた。
キャンプ場のむこうから、何かが奇妙な光を発射し、大砲のような音を立てながらこちらに向かってくる。
大声でやじり、笑い、酔って喚き散らす声がだんだん近づいてくる。そして、突然強烈な緑の光が炸裂し、あたりが照らし出された。

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