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第2章 傷痕 2

痛みが気になったわけではない。痛みや怪我なら、ハリーはいやというほど味わっていた。
一度は右腕の骨が全部なくなり、一晩痛い思いをして再生させたこともある。それからほどなく、その同じ右腕を30センチもある毒牙が刺し貫いた。
飛行中の箒から15メートルも落下したのはほんの一年前のことだ。
とんでもない事故や怪我なら、もう慣れっこだ。ホグワーツ魔法魔術学校に学び、しかも、なぜか知らないうちに事件を呼び寄せてしまうハリーにとって、それは避けられないことだった。

違うんだ。何か気になるのは、前回傷が痛んだ原因が、ヴォルデモートが近くにいたからなんだ……しかし、ヴォルデモートがいま、ここにいるはずがない……ヴォルデモートがプリベット通りにひそんでいるなんて、バカげた考えだ。ありえない……。

ハリーは静寂しじまの中で耳を澄ませた。階段の軋む音、マントのひるがえる音が聞こえるのではと、どこかでそんな気がしたのだろうか?
ちょうどそのとき、隣の部屋から、いとこのダドリーが巨大ないびきをかく音が聞こえ、ハリーはビクリとした。

ハリーは心の中でかぶらを振った。なんてバカなことを……この家にいるのは、ハリーのほかにバーノンおじさん、ペチュニアおばさんとダドリーだけだ。
悩みも痛みもない夢をむさぼり、全員まだ眠りこけている。

ハリーは、ダーズリー一家が眠っているときが一番気に入っていた。
起きていたからといって、ハリーのために何かしてくれるわけではない。

バーノンおじさん、ペチュニアおばさん、ダドリーはハリーにとって唯一の親戚だった。
一家はマグル(魔法族ではない)で、魔法と名がつくものはなんでもみ嫌っていた。つまり、ハリーはまるで犬の糞扱いだった。

この三年間ハリーがホグワーツに言って長期間不在だったことは、「セント・ブルータス更生不能非行少年院」に往ったと言いふらして取りつくろっていた。
ハリーのように半人前の魔法使いは、ホグワーツの外では魔法を使ってはいけないことを、一家はよく知っていた。それでもこの家で何かがおかしくなると、やはりハリーがとがめられる羽目になった。

魔法世界での生活がどんなものか、ハリーはただの一度もこの一家に打ち明けることも、話すこともできなかった。
この連中が朝になって起きてきたときに、傷が痛むだとか、ヴォルデモートのことが心配だとか打ち明けるなんて、まさにお笑いぐさだ。

だが、そのヴォルデモートこそ、そもそもハリーがダーズリー一家と暮らすようになった原因なのだ。
ヴォルデモートがいなければ、ハリーはいまでも両親と一緒だったろうに……。

あの夜、ハリーはまだ1歳だった。
ヴォルデモート__11年間、徐々に勢力を集めていった、今世紀最強の闇の魔法使い__が、ハリーの家にやってきて父親と母親を殺したあの夜、ヴォルデモートは杖をハリーに向け、呪いをかけた。
勢力を伸ばす過程で、何人もの大人の魔法使いや魔女を処分した、その呪いを。

ところが__信じられないことに、呪いが効かなかった。幼子を殺すどころか、呪いはヴォルデモート自身に跳ね返った。
ハリーは、額に稲妻のような切り傷を受けただけで生き残り、ヴォルデモートはかろうじて命を取り留めるだけの存在になった。
力は失せ、命も絶えなんとする姿で、ヴォルデモートは逃げ去った。
隠された魔法社会で、魔法使いや魔女が何年にもわたり戦々恐々と生きてきた、その恐怖が取り除かれ、ヴォルデモートの家来は散り散りになり、ハリーは有名になった。

11歳の誕生日に、はじめて自分が魔法使いだとわかったことだけでも、ハリーにとっては十分なショックだった。その上、隠された社会である魔法界では、だれもが自分の名前を知っているのだと知ったときは、さらに気まずい思いだった。
ホグワーツ校に着くと、どこに行ってもみんながハリーを振り返り、囁き交わした。しかし、いまではハリーもそれに慣れっこになっていた。
この夏が終われば、ハリーはホグワーツ校の四年生になる。
ホグワーツのあの城に戻れる日を、ハリーはいまから指折り数えて待っていた。

しかし、学校に戻るまでにまだ二週間もあった。
ハリーはやりきれない気持で部屋の中を見回し、誕生祝カードに目を止めた。七月末の誕生日に二人の親友から送られたカードだ。あの二人に手紙を書いて、傷痕が痛むと言ったら、何というだろう?

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