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第19章 ハンガリー・ホーンテール 7

部屋は薄暗く、暖炉の炎だけが明りを放っていた。
クリービー兄弟が何とかしようとがんばっていた「セドリック・ディゴリーを応援しよう」バッジが、そばのテーブルで、暖炉の火を受けてチカチカしていた。
いまや、「ほんとに汚いぞ、ポッター」に変わっていた。
暖炉の炎を振り返ったハリーは、飛び上がった。

シリウスの生首が炎の中に座っていた。
ウィーズリー家のキッチンで、ディゴリー氏がまったく同じことをするのを見ていなかったら、ハリーは縮み上がったに違いない。
怖がるどころか、ここしばらく笑わなかったハリーが、久し振りにニッコリした。
ハリーは、急いで椅子から飛び降り、暖炉の前にかがみ込んで話しかけた。

「シリウスおじさん__元気なの?」
シリウスの顔は、ハリーの覚えている顔と違って見えた。
さよならを言ったときは、シリウスの顔は痩せこけ、目が落ち窪み、黒い長髪がモジャモジャと絡みついて、顔の周りを覆っていた__でもいまは、髪をこざっぱりと短く切り、顔は丸みを帯び、あのときより若く見えた。
ハリーがたった一枚だけ持っているシリウスのあの写真、両親の結婚式のときの写真に近かった。

「わたしのことは心配しなくていい。君はどうだね?」
シリウスは真剣な口調だった。
「僕は__」
ほんの一瞬、「元気です」といおうとした__しかし、言えなかった。
せきを切ったように言葉がほとばしり出た。
ここ何日か分の穴埋めをするように、ハリーは一気にしゃべった__自分の意思でゴブレットに名前を入れたのではないと言っても、だれも信じてくれなかったこと、リータ・スキーターが「日刊予言者新聞」でハリーについて噓八百を書いたこと、廊下を歩いていると必ずだれかがからかうこと__そして、ロンのこと。
ロンがハリーを信用せず、嫉妬やきもちを焼いている……。

「……それに、ハグリッドがついさっき、第一の課題がなんなのか、僕に見せてくれたの。ドラゴンなんだよ、シリウス。僕、もうおしまいだ」
ハリーは絶望的になって話し終えた。

シリウスは憂いに満ちた目でハリーを見つめていた。
アズカバンがシリウスに刻み込んだまなざしが、まだ消え去ってはいない__死んだような、憑かれたようなまなざしだ。
シリウスはハリーが黙り込むまで、口を挟まずしゃべらせたあと、口を開いた。

「ドラゴンは、ハリー、なんとかなる。しかし、それはちょっとあとにしよう__あまり長くはいられない……この火を使うのに、とある魔法使いの家に忍び込んだのだが、家の者がいつ戻ってこないともかぎらない。君に警告しておかなければならないことがあるんだ」
「なんなの?」
ハリーは、ガクンガクンと数段気分が落ち込むような気がした……ドラゴンより悪いものがあるんだろうか?

「カルカロフだ」
シリウスが言った。
「ハリー、あいつは『死喰い人デス・イーター』だった。それが何か、わかってるね?」
「ええ__えっ?あの人が?」
「あいつは逮捕された。アズカバンで一緒だった。しかし、あいつは釈放された。ダンブルドアが今年『闇払い』をホグワーツに置きたかったのは、そのせいだ。絶対まちがいない__あいつを監視するためだ。カルカロフを逮捕したのはムーディだ。そもそもムーディがやつをアズカバンにぶち込んだ」
「カルカロフが釈放された?」
ハリーはよく飲み込めなかった。
脳みそが、また一つショックな情報を吸収しようとしてもがいていた。

「どうして釈放したの?」
「魔法省と取引したんだ」
シリウスが苦々しげに言った。
「自分が過ちを犯したことを認めると言った。そしてほかの名前を吐いた……自分の代わりにずいぶん多くの者をアズカバンに送った……言うまでもなく、あいつはアズカバンでは嫌われ者だ。そして、出獄してからは、わたしの知るかぎり、自分の学校に入学する者には全員に『闇の魔術』を教えてきた。だから、ダームストラングの代表選手にも気をつけなさい」
「うん。でも……カルカロフが僕の名前をゴブレットに入れたっていうわけ?だって、もしカルカロフの仕業なら、あの人、ずいぶん役者だよ。カンカンに怒っていたように見えた。僕が参加するのを阻止しようとした」
ハリーは考えながらゆっくり話した。

「やつは役者だ。それはわかっている」
シリウスが言った。
「なにしろ、魔法省に自分を信用させて、釈放させたやつだ。さてと、『日刊予言者新聞』にはずっと注目してきたよ、ハリー__」
「シリウスおじさんもそうだし、世界中がそうだね」
ハリーは苦い思いがした。
「__そして、スキーター女史の先月の記事の行間を読むと、ムーディがホグワーツに出発する前の晩に襲われた。いや、あの女が、また空騒ぎだったと書いていることは承知している」
ハリーが何か言いたそうにしたのを見て、シリウスが急いで説明した。
「しかし、わたしは違うと思う。だれかが、ムーディがホグワーツに来るのを邪魔しようとしたのだ。ムーディが近くにいると、仕事がやりにくくなるということを知っているヤツがいる。ムーディの件はだれも本気になって追求しないだろう。マッド・アイが、侵入者の物音を聞いたと、あんまりしょっちゅう言い過ぎた。しかし、そうだからといってムーディがもう本物を見つけられないというわけはない。ムーディは魔法省始まって以来の優秀な『闇払い』だった」

「じゃ……シリウスおじさんの言いたいのは?」
ハリーはそう言いながら考えていた。
「カルカロフが僕を殺そうとしているってこと?でも__なぜ?」

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