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第17章 猫、ネズミ、犬 2

ハリーは杖に手をかけた。しかし、遅かった__犬は大きくジャンプし、前足でハリーの胸を打った。ハリーはのけ反って倒れた。
犬の毛が渦巻く中で、ハリーは熱い息を感じ、数センチもの長い牙が並んでいるのを見た__。

しかし、勢い余って、犬はハリーから転がり落ちた。
肋骨が折れたかおのように感じ、クラクラしながら、ハリーは立ち上がろうとした。新たな攻撃をかけようと、犬が急旋回して唸っているのが聞こえる。

ロンは立っていた。犬がまた三人に跳びかかってきたとき、ロンはハリーを横に押しやった。
犬の両顎がハリーではなく、ロン伸ばした腕をパクリと噛んだ。ロンは野獣につかみかかり、むんずと毛を握った。だが犬はまるでボロ人形でもくわえるように、やすやすとロンを引きずっていった。

突然、どこからともなく、何かがハリーの横っ面を張り、ハリーはまたしても倒れてしまった。ハーマイオニーが痛みで悲鳴をあげ、倒れる音が聞こえた。ハリーは目に流れ込む血を瞬きで払い退けて、杖をまさぐった__。

ルーモス、光よ!」ハリーは小声で唱えた。
杖灯りに照らし出されたのは、太い木のみきだった。スキャバーズを追って、「あばやなぎ」の樹下じゅかに入り込んでいた。
まるで強風にあおられるかのように枝をきしませ、「暴れ柳」は二人をそれ以上近づけまいと、前に後ろに叩きつけている。

そして、そこに、その木の根元に、あの犬がいた。
根元に大きく空いた隙間に、ロンを頭から引きずり込もうとしている__ロンは激しく抵抗していたが、頭が、そして胴がズルズルと見えなくなりつつあった__。

「ロン!」ハリーは大声を出し、あとを追おうとしたが、太い枝が空を切って殺人パンチを飛ばし、ハリーはまたあとずさりせざるをえなかった。

もうロンの片脚しか見えなくなった。それ以上地中に引き込まれまいと、ロンは脚をくの字に曲げて根元に引っかけ、食い止めていた。
やがて、バシッとまるで銃声のような恐ろしい音が闇をつんざいた。
ロンの脚が折れたのだ。つぎの瞬間、ロンの足が見えなくなった。

「ハリー__助けを呼ばなくちゃ__」ハーマイオニーが叫んだ。血を流している。「柳」がハーマイオニーの肩を切っていた。
「ダメだ!あいつはロンを食ってしまうほど大きいんだ。そんな時間はない__」
「誰か助けを呼ばないと、絶対あそこに入れないわ__」
大枝がまたしても二人に殴りかかった。小枝が握り拳のように硬く結ばれている。
「あの犬が入れるなら、僕たちにもできるはずだ」ハリーはあちらこちらを跳び回り、息を切らしながら、凶暴な大枝のブローをかいくぐる道をなんとか見つけようとしていた。
しかし、ブローの届かない距離から一歩も根元に近づくことはできなかった。
「ああ、誰か、助けて」ハーマイオニーはその場でオロオロと走り回りながら、狂ったように呟き続けた。「誰か、お願い……」

クルックシャンクスがサーッと前に出た。
殴りかかる大枝の間をまるで蛇のようにすり抜け、両前足を木のふしの一つに載せた。

突如、「柳」はまるで大理石になったように動きを止めた。木の葉一枚そよともしない。
「クルックシャンクス!」ハーマイオニーはわけがわからず小声で呟いた。
「この子、どうしてわかったのかしら__?」
ハーマイオニーはハリーの腕を痛いほどきつく握っていた。
「あの犬の友達なんだ」ハリーは厳しい顔で言った。「僕、二匹が連れ立っているところを見たことがある。行こう__君も杖を出しておいて__」

木の幹までは一気に近づいたが、二人が根元の隙間に辿り着く前に、クルックシャンクスが瓶洗いブラシのような尻尾を打ち振り、スルリと先に滑り込んだ。ハリーが続いた。
頭から先に、って進み、狭い土のトンネルの傾斜を、ハリーは底まで滑り降りた。
クルックシャンクスが少し先を歩いている。ハリーの杖灯りに照らされ、目がランランと光っていた。すぐあとからハーマイオニーが滑り降りてきて、ハリーと並んだ。

「ロンはどこ?」ハーマイオニーが恐々囁こわごわささやいた。
「こっちだ」ハリーはクルックシャンクスのあとを、背中を丸めてついていった。


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