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第12章  守護霊 1

ハーマイオニーは善意でやったことだ。ハリーにはそれがわかっていたが、やはり腹が立った。
世界一の箒の持ち主になれたのはほんの数時間。いまはハーマイオニーのお節介のおかげで、もう二度とあの箒に会えるかどうかさえわからない。
いまならファイアボルトにどこもおかしいところはないとはっきり言えるが、あれやこれやと呪い崩しのテストをかけられたら、どんな状態になってしまうのだろう?

ロンもハーマイオニーにカンカンに腹をたてていた。新品のファイアボルトをバラバラにするなんて、ロンにしてみれば、まさに犯罪的な破壊行為だ。
ハーマイオニーはためになることをしたという揺るぎない信念で、やがて談話室を避けるようになった。ハリーとロンは、ハーマイオニーが図書館に避難したのだろうと思い、談話室に戻るよう説得しようともしなかった。
結局、年が明けて、間もなくみんなが学校に戻り、グリフィンドール塔がまたがやがやと混み合ってきたのが、二人にはうれしいことだった。

学校が始まる前の夜、ウッドがハリーを呼び出した。
「いいクリスマスだったか?」
ウッドが聞いた。そして答えも聞かずに座り込み、声を低くして言った。
「ハリー、俺はクリスマスの間、いろいろ考えてみた。前回の試合のあとだ。わかるだろう。もしもつぎの試合に吸魂鬼ディメンターが現れたら……つまり……君があんなことになると__その__」
ウッドは困り果てた顔で言葉を切った。
「僕、対策を考えてるよ」ハリーが急いで言った。
「ルーピン先生が吸魂鬼ディメンター防衛術の訓練をしてくれるっておっしゃった。今週中には始めるはずだ。クリスマスのあとなら時間があるっておっしゃってたから」
「そうか」ウッドの表情が明るくなった。「うん、それなら__ハリー、俺は、シーカーの君を絶対に失いたくなかったんだ。ところで、新しい箒は注文したか?」
「ううん」
「なに!早いほうがいいぞ、いいか__レイブンクロー戦で『流れ星』なんかには乗れないぜ!」
「ハリーは、クリスマス・プレゼントにファイアボルトをもらったんだ」ロンが言った。
ファイアボルト?まさか!ほんとか?ほ、ほんもののファイアボルトか?
「興奮しないで、オリバー」ハリーの顔が曇った。
「もう僕の手にはないんだ。取り上げられちゃった」

ハリーはファイアボルトが呪い調べを受けるようになった一部始終を説明した。
「呪い?なんで呪いがかけられるっていうんだ?」
「シリウス・ブラック」ハリーはうんざりした口調で答えた。「僕を狙ってるらしいんだ。だからマクゴナガル先生が、箒を送ったのはブラックかもしれないって」
「しかし、ブラックがファイアボルトを買えるわけがない!逃亡中だぞ!国中がヤツを見張ってるようなもんだ!『高級クィディッチ用具店』にのこのこ現れて、箒なんか買えるか?」
かの有名な殺し屋が、チームのシーカーを狙っているという話はうっちゃったまま、ウッドが言った。
「僕もそう思う」ハリーが言った。「だけどマクゴナガルは、それでも箒をバラバラにしたいんだって」
ウッドは真っ青になった。
「ハリー、俺が行って話してやる」ウッドがうけ合った。
「言ってやるぞ。ものの道理ってもんがある……ファイアボルトかぁ……我がチームに、ほんもののファイアボルトだ……マクゴナガルも俺たちと同じくらい、グリフィンドールに勝たせたいんだ……俺が説得してみせるぞ……ファイアボルトかぁ……」


学校はつぎの週から始まった。震えるような一月の朝に、戸外で二時間の授業を受けるのは、誰だってできれば勘弁してほしい。
しかし、ハグリッドは大きな焚き火の中に火トカゲサラマンダーをたくさん集めて、生徒を楽しませた。みんなで枯れ木や枯れ葉を集めて、焚き火を明明あかあかと燃やし続け、炎大好きの火トカゲサラマンダーは白熱したたきぎが燃え崩れる中をチョロチョロ駆け回り、その日はめずらしく楽しい授業になった。
それに引き替え、「占い学」の新学期第一日目は楽しくはなかった。   
トレローニー先生は今度は手相を教えはじめたが、いちはやく、これまで見た手相の中で生命線が一番短いとハリーに告げた。

「闇の魔術に対する防衛術」、これこそハリーが始まるもを待ちかねていたクラスだった。ウッドと話をしてからは、一刻も早く吸魂鬼ディメンターばらいの訓練を始めたかった。
授業の後、ハリーはルーピン先生にこの約束のことを思い出させた。
「ああ、そうだったね。そうだな……木曜の夜、八時からではどうかな?『魔法史』の教室なら広さも十分ある……どんなふうに進めるか、わたしも慎重に考えないといけないな……本物の吸魂鬼ディメンターを城の中に連れてきて練習するわけにはいかないし……」

夕食に向かう途中、二人で廊下を歩きながら、ロンが言った。
「ルーピンはまだ病気みたい。そう思わないか?いったいどこが悪いのか、君、わかる?」
二人のすぐ後ろでイライラしたように大きく舌打ちする音が聞こえた。
ハーマイオニーだった。鎧の足元に座り込んで、本でパンパンになって閉まらなくなったカバンを詰め直していた。
「なんで僕たちに向かって舌打ちなんかするんだい?」ロンがイライラしながら言った。
「なんでもないわ」カバンをよいしょと背負いながら、ハーマイオニーがとりすました声で言った。
「いや、なんでもあるよ」ロンが突っかかった。
「僕が、ルーピンはどこが悪いんだろうって言ったら、君は__」
「あら、そんなこと、わかりきたことじゃない?
しゃくさわるような、優越感を漂わせて、ハーマイオニーが言った。
「教えたくないなら、言うなよ」ロンがピシャッと言った。
「あら、そう」ハーマイオニーは高慢ちきにそう言うと、ツンツンと歩き去った。
「知らないくせに」ロンは憤慨して、ハーマイオニーの後ろ姿を睨みつけた。
「あいつ、僕たちにまた口をきいてもらうきっかけがほしいだけさ」


木曜の夜八時、ハリーはグリフィンドール塔を抜け出し、「魔法史」の教室に向かった。
着いたときには教室は真っ暗で、誰もいなかった。
杖でランプを点け、待っていると、ほんの五分ほどでルーピン先生が現れた。荷造り用の大きな箱を抱えている。それをビンズ先生の机によいしょと下ろした。


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