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第5章 暴れ柳 1

夏休みはあまりにもあっけなく終わった。ハリーはたしかにホグワーツに戻る日を楽しみにしてはいたが、「隠れ穴」での一カ月ほど幸せな時間はなかった。ダーズリー一家のことや、この次にプリベット通りに戻ったとき、どんな「歓迎」を受けるかなどを考えると、ロンが妬ましいぐらいだった。

最後の夜、ウィーズリーおばさんは魔法で豪華な夕食を作ってくれた。ハリーの大好物は全部あったし、最後は、よだれの出そうな糖蜜のかかったケーキだった。フレッドとジョージは、その夜の締めくくりに「ドクター・フィリバスターの長々花火」を仕掛け、台所をいっぱいに埋めた赤や青の星が、少なくとも三十分は天井と壁の間をポーンポーンと跳ね回った。そして最後に熱いココアをマグカップでたっぷり飲み、みんな眠りについた。

翌朝、出かけるまでにかなりの時間がかかった。鶏の時の声でみんな早起きしたのに、なぜか、やることがたくさんあった。ウィーズリーおばさんは、ソックスや羽ペンがもっとたくさんあったはずだと、あちこち探し回ってご機嫌斜めだったし、みんな手に食べかけのトーストを持ったまま、半分パジャマのまま、階段のあちこちで何度もぶつかり合っていた。ウィーズリーおじさんは、ジニーのトランクを車に乗せるのに、庭を横切る途中、鶏に躓いて、危うく首の骨を折るところだった。

八人の乗客と大きなトランク六個、ふくろう二羽、ねずみ一匹を全部、どうやって小型のフォード・アングリアに詰め込むのか、ハリーには見当もつかなかった。もっとも、ウィーズリーおじさんが細工した、特別の仕掛けを知らなかったからなのだが__。
「モリーには内緒だよ」
おじさんはハリーにそうささやきながら、車のトランクを開き、全部のトランクがらくらく入るように魔法で広げたところを見せてくれた。

やっとみんなが車に乗り込むと、ウィーズリーおばさんは後ろの席を振り返り、ハリー、ロン、フレッド、ジョージ、パーシーが全員並んで心地よさそうに収まっているのを見て、
「マグルって、私たちが考えているよりずーっといろんなことを知ってるのね。そう思わないこと?」と言った。

おばさんとジニーが座っている前の席は、公園のベンチのような形に引き伸ばされていた。
「だって、外から見ただけじゃ、中がこんなに広いなんてわからないもの。ねえ?」
ウィーズリーおじさんがエンジンをかけた。車はゴロンゴロンと庭から外へ出た。ハリーは振り返って、最後にもう一目だけ家を見るつもりだった。またいつ来れるのだろう、と思う間もなく、車は引き返した。ジョージがフィリバスター花火の箱を忘れたのだ。五分後、まだ庭から出ないうちに車は急停車した。フレッドが箒を取りに走って行った。やっと高速道路にたどり着くころにジニーが金切り声をあげた。日記を忘れたと言う。ジニーが戻ってきて、車に這い登ったころには、遅れに遅れて、みんなのイライラが高まってきた。

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