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第18章 杖調べ 7

女史はワニ革ハンドバッグをパチンと開け、蝋燭を一握り取り出し、杖を一振りして火を灯し、宙に浮かせ、手元が見えるようにした。

「ハリー、自動速記羽根ペンQQQを使ってもいいざんしょ?そのほうが、君と自然におしゃべりできるし……」
「えっ?」
ハリーが聞き返した。

リータ・スキーターの口元が、ますますニーッと笑った。
ハリーは、金歯を三本まで数えた。
女史はまたワニ革ハンドバッグに手を伸ばし、黄緑色の長い羽根ペンと羊皮紙一巻を取り出した。
女史は、「ミセス・ゴシゴシの魔法万能汚れ落とし」の木箱を挟んでハリーと向かい合い、箱の上に羊皮紙を広げた。
黄緑色の羽根ペンの先を口に含むと、女子は、見るからにうまそうにちょっと吸い、それから羊皮紙の上にそれを垂直に立てた。
羽根ペンは微かに震えながらも、ペン先でバランスを取って立った。

「テスト、テスト……あたくしはリータ・スキーター、『日刊予言者新聞』の記者です」
ハリーは急いで羽根ペンを見た。
リータ・スキーターが話しはじめたとたん、黄緑の羽根ペンは、羊皮紙の上を滑るように、走り書きを始めた。

魅惑のブロンド、リータ・スキーター、43歳。その仮借かしゃくなきペンは多くのでっち上げの名声をペシャンコにした。

「すてきざんすわ」
またしてもそう言いながら、女史は羊皮紙の一番上を破り、丸めてハンドバッグに押し込んだ。
次に、ハリーのほうにかがみ込み、女史が話しかけた。
「じゃ、ハリー……君、どうして三校対抗試合に参加しようと決心したのかな?」
「えーと……」
そう言いかけて、ハリーは羽根ペンに気を取られた。
何も言ってないのに、ペンは羊皮紙の上を疾走し、その跡に新しい文章が読み取れた。

悲劇の過去の置き土産、醜い傷痕が、ハリー・ポッターのせっかくのかわいい顔を台無しにしえいる。その目は……

「ハリー、羽根ペンのことは気にしないことざんすよ」
リータ・スキーターがきつく言った。
気が進まないままに、ハリーはペンから女史へと目を移した。
「さあ__どうして三校対抗試合に参加しようと決心したの?ハリー?」
「僕、していません」
ハリーが答えた。
「どうして僕の名前が『炎のゴブレット』に入ったのか、僕、わかりません。僕は入れていないんです」
リータ・スキーターは、眉ペンで濃く描いた片方の眉を吊り上げた。
「大丈夫、ハリー。叱られるんじゃないかなんて、心配する必要はないざんすよ。君がほんとうは参加するべきじゃなかったとわかってるざんす。だけど、心配ご無用。読者は反逆者が好きなんざんすから」
「だって、僕、入れてない」ハリーがくり返した。
「僕知らない。いったいだれが__」
「これから出る課題をどう思う?」
リータ・スキーターが聞いた。
「ワクワク?怖い?」
「僕、あんまり考えてない……うん。怖い、たぶん」
そう言いながら、ハリーは何だか気まずい思いに、胸がのたうった。

「過去に、代表選手が死んだことがあるわよね?」リータ・スキーターがずけずけ言った。
「そのことをぜんぜん考えなかったのかな?」
「えーと……今年はずっと安全だって、みんなが言ってます」
ハリーが答えた。
羽根ペンは二人の間で、羊皮紙の上をスケートするかのように、ヒュンヒュン音を立てて往ったり来たりしていた。
「もちろん、君は、死に直面したことがあるわよね?」
リータ・スキーターが、ハリーをじっと見た。
「それが、君にどういう影響を与えたと思う?」
「えーと」
ハリーはまた「えーと」をくり返した。
「過去のトラウマが、君を自分の力を示したいという気持にさせてると思う?名前に恥じないように?もしかしたらそういうことかな__三校対抗試合に名前を入れたいという誘惑に駆られた理由は__」
僕、名前を入れてないんです
ハリーはイライラしてきた。
「君、ご両親のこと、少しは覚えてるのかな?」
ハリーの言葉を遮るようにリータ・スキーターが言った。
「いいえ」
ハリーが答えた。
「君が三校対抗試合で競技すると聞いたら、ご両親はどう思うかな?自慢?心配する?怒る?」

ハリーはいい加減うんざりしてきた。
両親が生きていたらどう思うかなんて、僕にわかるわけがないじゃないか?
リータ・スキーターがハリーを食い入るように見つめているのを、ハリーは意識していた。
ハリーは顔をしかめて女史の視線を外し、下を向いて羽根ペンが書いている文字を見た。

自分がほとんど覚えていない両親のことに話題が移ると、驚くほど深い緑の目に涙が溢れた。

「僕、目に涙なんかない!」
ハリーは大声を出した。
リータ・スキーターが何かいう前に、箒置き場のドアが外側から開いた。
眩しい光に目を瞬きながら、ハリーはドアの方を振り返った。
アルバス・ダンブルドアが、物置で窮屈そうにしている二人を見下ろして、そこに立っていた。

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