第20章 第一の課題 1
日曜の朝、起きて服を着はじめたものの、ハリーは上の空で、足に靴下を履かせる代わりに帽子を被せようとしていたことに気づくまで、しばらくかかった。
やっと、体のそれぞれの部分に当てはまる服を身に着け、ハリーは急いでハーマイオニーを探しに部屋を出た。
ハーマイオニーは大広間のグリフィンドール寮のテーブルで、ジニーと一緒に朝食をとっていた。
ハリーは、ムカムカしてとても食べる気になれず、ハーマイオニーがオートミールの最後の一さじを飲み込むまで待って、それからハーマイオニーを引っ張って校庭に出た。
湖のほうへ二人でまた長い散歩をしながら、ハリーはドラゴンのこと、シリウスの言ったことをすべてハーマイオニーに話して聞かせた。
シリウスがカルカロフを警戒せよと言ったことは、ハーマイオニーを驚かせはしたが、やはり、ドラゴンのほうがより緊急の問題だというのがハーマイオニーの意見だった。
「とにかく、あなたが火曜日の夜も生きているようにしましょう」
ハーマイオニーは必死の面持ちだった。
「それからカルカロフのことを心配すればいいわ」
ドラゴンを抑えつける簡単な呪文とはなんだろうと、いろいろ考えて、二人は湖の周りを三周もしていた。
まったく何も思いつかなかった。
そこで二人は図書館にこもった。
ハリーは、ここで、ドラゴンに関するありとあらゆる本を引っ張り出し、二人で山と積まれた本に取り組みはじめた。
「『鉤爪を切る呪文……腐った鱗の治療』……だめだ。こんなのは、ドラゴンの健康管理をしたがるハグリッドみたいな変わり者用だ……」
「『ドラゴンを殺すのは極めて難しい。古代の魔法が、ドラゴンの分厚い皮に浸透したことにより、最強の呪文以外は、どんな呪文もその皮を貫くことはできない』……だけど、シリウスは簡単な呪文が効くって言ったわよね……」
「それじゃ、簡単な呪文集を調べよう」
ハリーは「ドラゴンを愛しすぎる男たち」の本をポイッと放った。
ハリーは呪文集を一山抱えて机に戻り、本を並べて次々にパラパラとページをめくりはじめた。
ハーマイオニーはハリーのすぐ脇で、ひっきりなしにブツブツ言っていた。
「ウーン、『取替え呪文』があるけど……でも、取り替えてどうにかなるの?牙の代わりにマシュマロかなんかに取り替えたら、少しは危険でなくなるけど……問題は、さっきの本にも書いてあったように、ドラゴンの皮を貫くものがほとんどないってことなのよ……変身させてみたらどうかしら。でも、あんなに大きいと、あんまり望みないわね。マクゴナガル先生でさえだめかも……もっとも、自分自身に呪文をかけるっていう手があるじゃない?自分にもっと力を与えるのはどう?だけど、そういうのは簡単な呪文じゃないわね。つまり、まだそういうのは授業で一つも習ってないもの。私はO・W・Lの模擬試験をやってみたから、そういうのがあるって知ってるだけ……」
「ハーマイオニー」
ハリーは歯を食いしばって言った。
「ちょっと黙っててくれない?僕、集中したいんだ」
しかし、いざハーマイオニーが静かになってみれば、ハリーの頭の中は真っ白になり、ブンブンという音で埋まってしまい、集中するどころではなかった。
ハリーは救いようのない気持ちで、本の索引を辿っていた。
「『忙しいビジネス魔ンのための簡単な呪文__即席頭の皮はぎ』……でもドラゴンは髪の毛がないよ……『故障入りの息』……これじゃ、ドラゴンの吐く火が強くなっちゃう……『角のある舌』……ばっちりだ。これじゃ敵にもう一つ武器を与えてしまうじゃないか……」
「ああ、いやだ。またあの人だわ。どうして自分のボロ船で読書しないのかしら?」
ハーマイオニーがイライラした。
ビクトール・クラムが入ってくるところだった。
いつもの前かがみで、むっつりと二人を見て、本の山と一緒に遠くの隅に座った。
「行きましょうよ、ハリー。談話室に戻るわ……。あの人のファンクラブがすぐ来るわ。ピーチクパーチクって……」
そして、そのとおり、二人が図書館を出るとき、女子学生の一団が、忍び足で入ってきた。
中の一人は、ブルガリアのスカーフを腰に巻きつけていた。
〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰
ハリーはその夜、ほとんど眠れなかった。
月曜の朝目覚めたとき、ハリーははじめて真剣にホグワーツから逃げ出すことを考えた。
しかし、朝食のときに大広間を見回して、ホグワーツ城を去るということが何を意味するかを考えたとき、ハリーはやはりそれはできないと思った。
ハリーがいままでに幸せだと感じたのは、ここしかない……そう、両親と一緒だったときも、きっと幸せだったろう。
しかし、ハリーはそれを覚えていない。
ここにいてドラゴンに立ち向かうほうが、ダドリーと一緒のプリベット通りに戻るよりはましだ。
それがはっきりしただけで、ハリーは少し落ち着いた。
なんとかかんとかベーコンを飲み込み(ハリーの喉は、あまりうまく機能していなかった)、ハリーとハーマイオニーが立ち上がると、ちょうどセドリック・ディゴリーもハッフルパフのテーブルを立つところだった。
セドリックはまだドラゴンのことを知らない……マダム・マクシームとカルカロフが、ハリーの考えるとおり、フラーとクラムに話をしていたとすれば、代表選手の中でただ一人知らないのだ。
セドリックが大広間を出ていくところを見ていて、ハリーの気持ちは決まった。
「ハーマイオニー、温室で会おう。先に行って。すぐ追いつくから」
ハリーが言った。
「ハリー、遅れるわよ。もうすぐベルが鳴るのに__」
「追いつくよ。オッケー?」
ハリーが大理石の階段の下に来たとき、セドリックは階段の上にいた。
六年生の友達がたくさん一緒だった。
ハリーはその生徒たちの前でセドリックに話をしたくなかった。
みんな、ハリーが近づくと、いつも、リータ・スキーターの記事を持ち出す連中だった。
ハリーは間を置いてセドリックのあとをつけた。
すると、セドリックが「呪文学」の教室への廊下に向かっていることがわかった。
そこで、ハリーは閃いた。
一団から離れたところで、ハリーは杖を取り出し、しっかり狙いを定めた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?