第20章 第一の課題 4
「よくなったわ、ハリー。ずいぶんよくなった」
ハーマイオニーは疲れきった顔で、しかしとてもうれしそうに言った。
「うん、これからは僕が呪文をうまく使えなかったときに、どうすればいいのかわかったよ」
ハリーはそう言いながらルーン文字の辞書をハーマイオニーに投げ返し、もう一度練習することにした。
「ドラゴンが来るって、僕を脅せばいいのさ。それじゃ、やるよ……」
ハリーはもう一度杖を上げた。
「アクシオ!辞書よ来い!」
重たい辞書がハーマイオニーの手を離れて浮き上がり、部屋を横切ってハリーの手に納まった。
「ハリー、あなた、できたわよ。ほんと!」
ハーマイオニーは大喜びだった。
「明日うまくいけば、だけど」
ハリーが言った。
「ファイアボルトはここにあるものよりずっと遠いところにあるんだ。城の中に。僕は外で、競技場にいる……」
「関係ないわ」
ハーマイオニーがきっぱり言った。
「ほんとに、ほんとうに集中すれば、ファイアボルトは飛んでくるわ。ハリー、私たち、少しは寝たほうがいい……あなた、睡眠が必要よ」
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ハリーはその夜、「呼び寄せ呪文」を習得するのに全神経を集中していたので、言い知れない恐怖感も少しは忘れていた。
翌朝にはそれがそっくり戻ってきた。
学校中の空気が緊張と興奮で張りつめていた。
授業は半日で終わり、生徒がドラゴンの囲い地に出かける準備の時間が与えられた__もちろん、みんなは、そこに何があるのかを知らなかった。
ハリーは周りのみんなから切り離されているような奇妙な感じがした。
がんばれと応援していようが、すれ違いざま「ティッシュ一箱用意してあるぜ、ポッター」と憎まれ口を叩こうが、同じことだった。
神経が極度に昂っていた。
ドラゴンの前に引き出されたら、理性など吹き飛んで、だれかれ見境なく呪いをかけはじめるのではないかと思った。
時間もこれまでになくおかしな動き方をした。
ボタッボタッと大きな塊になって時が飛び去り、ある瞬間には一時間目の「魔法史」で机の前に腰かけたかと思えば、次の瞬間は昼食に向かっていた……そして(いったい午前中はどこに行ったんだ?ドラゴンなしの最後の時間はどこに?)、マクゴナガル先生が大広間にいるハリーのところへ急いでやってきた。
大勢の生徒がハリーを見つめている。
「ポッター、代表選手は、すぐ競技場に行かないとなりません……第一の課題の準備をするのです」
「わかりました」
立ち上がると、ハリーのフォークがカチャリと皿に落ちた。
「がんばって!ハリー!」
ハーマイオニーが囁いた。
「きっと大丈夫!」
「うん」
ハリーの声は、いつもの自分の声とまるで違っていた。
ハリーはマクゴナガル先生と一緒に大広間を出た。
先生はいつもの先生らしくない。
事実、ハーマイオニーと同じくらい心配そうな顔をしていた。
石段を下りて11月の午後の寒さの中に出たとき、先生はハリーの肩に手を置いた。
「さあ、落ち着いて」
先生が言った。
「冷静さを保ちなさい……手に負えなくなれば、事態を納める魔法使いたちが待機しています……大切なのは、ベストを尽くすことです。そうすれば、だれもあなたのことを悪く思ったりはしません……大丈夫ですか?」
「はい」
ハリーは自分がそう言うのを聞いた。
「はい、大丈夫です」
マクゴナガル先生は、禁じられた森の縁を回り、ハリーをドラゴンのいる場所へと連れていった。
しかし、囲い地の手前の木立に近づき、はっきり囲い地が見えるところまで来たとき、ハリーはそこにテントが張られているのに気づいた。
テントの入口がこちら側を向いていて、ドラゴンはテントで隠されていた。
「ここに入って、ほかの代表選手たちと一緒にいなさい」
マクゴナガル先生の声がやや震えていた。
「そして、ポッター、あなたの番を待つのです。バグマン氏が中にいます……バグマン氏が説明します__手続きを……。がんばりなさい」
「ありがとうございます」
ハリーはどこか遠くで声がするような、抑揚のない言い方をした。
先生はハリーをテントの入口に残して去った。
ハリーは中に入った。
フラー・デラクールが片隅の低い木の椅子に座っていた。
いつもの落ち着きはなく、青ざめて冷汗をかいていた。
ビクトール・クラムはいつもよりさらにむっつりしていた。
これがクラムなりの不安の表し方なのだろうと、ハリーは思った。
セドリックは往ったり来たりを繰り返していた。
ハリーが入っていくと、セドリックはちょっと微笑んだ。
ハリーも微笑み返した。
まるで微笑み方を忘れてしまったかのように、顔の筋肉が強ばっているのを感じた。
「ハリー!よーし、よし!」
バグマンがハリーのほうを振り向いて、うれしそうに言った。
「さあ、入った、入った。楽にしたまえ!」
青ざめた代表選手たちの中に立っているバグマンは、なぜか、大げさな漫画のキャラクターのような姿に見えた。
今日もまた、昔のチーム、ワスプスのユニフォームを着ていた。
「さて、もう全員集合したな__話して聞かせるときが来た!」
バグマンが陽気に言った。
「観衆が集まったら、わたしから諸君一人ひとりにこの袋を渡し」__バグマンは紫の絹でできた小さな袋を、みんなの前で振って見せた__
「その中から、諸君はこれから直面するものの小さな模型を選び取る!さまざまな__エー__違いがある。
それから、何かもっと諸君に言うことがあったな……ああ、そうだ……諸君の課題は、金の卵を取ることだ!」
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