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第21章 ハーマイオニーの秘密 10
「ルーピンが来た!」ハリーが言った。もう一人誰かの姿が石段を下り、「柳」に向かって走ってくる。
ハリーは空を見上げた。雲が完全に月を覆っている。
ルーピンが折れた枝を拾って、木の幹のコブを突つくのが見えた。
木は暴れるのをやめ、ルーピンもまた木の根元の穴へと消えた。
「ルーピンが『マント』を拾ってくれてたらなぁ。そこに置きっぱなしになってるのに……」
ハリーはそう言うと、ハーマイオニーの方に向き直った。
「もし、いま僕が急いで走っていってマントを取ってくれば、スネイプはマントを手に入れることができなくなるし、そうすれば__」
「ハリー、私たち姿を見られてはいけないのよ!」
「君、どうして我慢できるんだい?」ハリーは激しい口調でハーマイオニーに言った。
「ここに立って、なるがままに任せて、なんにもしないで見てるだけなのかい?」
ハリーはちょっと戸惑いながら言葉を続けた。
「僕、『マント』を取ってくる!」
「ハリー、だめ!」
ハーマイオニーがハリーのローブをつかんで引き戻した。
間一髪。ちょうどそのとき大きな歌声が聞こえた。ハグリッドだ。
城に向かう道すがら、足もとをふらつかせ、声を張りあげて歌っている。手には大きな瓶をブラブラさせていた。
「でしょ?」ハーマイオニーが囁いた。「どうなってたか、わかるでしょ?私たち、人に見られてはいけないのよ!ダメよ、バックビーク!」
ヒッポグリフはハグリッドのそばに行きたくて、必死になっていた。
ハリーも手綱をつかみ、バックビークを引き戻そうと引っ張った。
二人はハグリッドがほろ酔いの千鳥足で城の方に行くのを見ていた。ハグリッドの姿が見えなくなった。バックビークは逃げようと暴れるのをやめ、悲しそうにうなだれた。
それからほんの二分もたたないうちに、城の扉が再び開き、スネイプが突然姿を現わし、「柳」に向かって走り出した。
スネイプが木のそばで急に立ち止まり、周りを見回すのを、二人で見つめながら、ハリーは拳を握り締めた。スネイプが「マント」をつかみ、持ち上げて見ている。
「汚らわしい手でさわるな」ハリーは息をひそめ、歯噛みした。
「しっ!」
スネイプはルーピンが柳を固定するのに使った枝を拾い、それで木のコブを突き、「マント」をかぶって姿を消した。
「これで全部ね」ハーマイオニーが静かに言った。
「私たち全員、あそこにいるんだわ……さあ、あとは私たちがまた出てくるまで待つだけ……」
ハーマイオニーはバックビークの手綱の端を一番手近の木にしっかり結びつけ、乾いた土の上に腰を下ろし、膝を抱きかかえた。
「ハリー、私、わからないことがあるの……どうして、吸魂鬼はシリウスを捕まえられなかったのかしら?私、吸魂鬼がやってくるところまでは覚えてるんだけど、それから気を失ったと思う……ほんとに大勢いたわ……」
ハリーも腰を下ろした。そして自分が見たことを話した。
一番近くにいた吸魂鬼がハリーの口元に口を近づけたこと、そのとき大きな銀色の何かが、湖のむこうから疾走してきて、吸魂鬼を退却させたこと。
説明し終わったとき、ハーマイオニーの口元がかすかに開いていた。
「でも、それ、なんだったの?」
「吸魂鬼を追い払うものは、たった一つしかありえない」ハリーが言った。
「本物の守護霊だ。強力な」
「でも、いったい誰が?」
ハリーは無言だった。湖のむこう岸に見えた人影を、ハリーは思い返していた。あれが誰だと思ったか、ハリーは自分ではわかっていた……でも、そんなことがありうるだろうか?
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