第22章 再びふくろう便 5
「いいや。わたしが君たちの命を救おうとしていたのだと、ダンブルドア先生がファッジを納得させてくださった」ルーピンはため息をついた。
「セブルスはそれでプッツンとキレた。マーリン勲章をもらい損ねたのが痛手だったのだろう。そこで、セブルスは__その__ついうっかり、今日の朝食の席で、わたしが狼人間だと漏らしてしまった」
「たったそれだけでお辞めになるなんて!」
ルーピンは自嘲的な笑いを浮かべた。
「明日のいまごろには、親たちからのふくろう便が届きはじめるだろう__ハリー、誰も自分の子どもが、狼人間に教えを受けることなんて望まないんだよ。それに、昨夜のことがあって、わたしも、その通りだと思う。誰か君たちを噛んでいたかもしれないんだ……こんなことは二度と起こってはならない」
「先生はいままでで最高の『闇の魔術に対する防衛術』の先生です!行かないでください」
ルーピンは首を振り、何も言わなかった。
そして引き出しの中を片付け続けた。ハリーが、どう説得したらルーピンを引き止められるかと、あれこれ考えていると、ルーピンが言った。
「校長先生が今朝、わたしに話してくれた。ハリー、君は昨夜、ずいぶん多くの命を救ったそうだね。わたしに誇れることがあるとすれば、それは、君がそれほど多くを学んでくれたということだ。君の守護霊のことを話しておくれ」
「どうしてそれをご存じなんですか?」ハリーは気をそらされた。
「それ以外、吸魂鬼を追い払えるものがあるかい?」
何が起こったのか、ハリーはルーピンに話した。話し終えたとき、ルーピンがまた微笑んだ。
「そうだ。君のお父さんは、いつも牡鹿に変身した。君の推測通りだ……だからわたしたちはプロングズと呼んでいたんだよ」
ルーピンは最後の数冊の本をスーツケースに放り込み、引き出しを閉め、ハリーの方に向き直った。
「さあ__昨夜『叫びの屋敷』からこれを持ってきた」ルーピンはそう言うとハリーに「透明マント」を返した。「それと……」ちょっとためらってから、ルーピンは「忍びの地図」も差し出した。
「わたしはもう、君の先生ではない。だから、これを君に返しても別に後ろめたい気持ちはない。わたしにはなんの役にも立たないものだ。それに、君とロンとハーマイオニーなら、使い道を見つけることだろう」
ハリーは地図を受け取ってニッコリした。
「ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズが僕を学校から誘い出したいと思うだろうって、先生、そうおっしゃいました……おもしろがってそうするだろうって」
「ああ、その通りだったろうね」ルーピンは、もうカバンを閉めようとしていた。
「ジェームズだったら、自分の息子が、この城を抜け出す秘密の通路を一つも知らずに過ごしたなんてことになったら、大いに失望しただろう。これはまちがいなく言える」
ドアをノックする音がした。ハリーは急いで「忍びの地図」と「透明マント」をポケットに押し込んだ。
ダンブルドア先生だった。ハリーがいるのを見ても驚いた様子もない。
「リーマス、門のところに馬車が来ておる。」
「校長、ありがとうございます」
ルーピンは古ぼけたスーツケースと空になった水魔の水槽を取り上げた。
「それじゃ__さよなら、ハリー」ルーピンが微笑んだ。「君の先生になれてうれしかったよ。またいつかきっと会える。校長、門までお見送りいただかなくて結構です。一人で大丈夫です……」
ハリーはルーピンが一刻も早く立ち去りたがっているような気がした。
「それでは、さらばじゃ、リーマス」ダンブルドアが重々しく言った。
ルーピンは水魔の水槽を少しわきによけてダンブルドアと握手できるようにした。
最後にもう一度ハリーに向かって頷き、チラリと笑顔を見せて、ルーピンは部屋を出ていった。
ハリーは主のいなくなった椅子に座り、ふさぎ込んで床を見つめていた。
ドアが閉まる音が聞こえて見上げると、ダンブルドアがまだそこにいた。
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