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第16章 炎のゴブレット 3

ロンが「知らない」とばかり肩をすくめた。
「__今年はどんな手順で進めるのかを明らかにしておくためじゃが。その前に、まだこちらのお二人を知らない者のためにご紹介しよう。国際魔法協力部部長、バーテミウス・クラウチ氏」__儀礼的な拍手がパラパラと起こった__「そして、魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルード・バグマン氏じゃ」
クラウチのときよりもずっと大きな拍手があった。
ビーターとして有名だったからかもしれないし、ずっと人好きのする容貌のせいかもしれなかった。
バグマンは、陽気に手を振って拍手に応えた。
バーテミウス・クラウチは、紹介されたとき、にこりともせず、手を振りもしなかった。
クィディッチ・ワールドカップでのスマートな背広姿を覚えているハリーにとって、魔法使いのローブがクラウチ氏とちぐはぐな感じがした。
チョビ髭もピッチリに分けた髪も、ダンブルドアの長い白髪と顎鬚の隣では、際立って滑稽に見えた。

「バグマン氏とクラウチ氏は、この数ヵ月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力じんりょくされてきた」
ダンブルドアの話は続いた。
「そして、おふた方は、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしとともに、代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる」
「代表選手」の言葉が出たとたん、熱心に聞いていた生徒たちの耳が一段と研ぎ澄まされた。

ダンブルドアは、生徒が急にしんとなったのに気づいたのか、ニッコリしながらこう言った。
「それでは、フィルチさん、箱をこれへ」

大広間の隅に、だれにも気づかれずに身をひそめていたフィルチが、いま、宝石をちりばめた大きな木箱を捧げ、ダンブルドアのほうに進み出た。
かなる古いものらしい。
見つめる生徒たちから、いったいなんだろうと、興奮のざわめきが起こった。
デニス・クリービーはよく見ようと、椅子の上に立ち上がったが、それでも、あまりにチビで、みんなの頭よりちょっぴり上に出ただけだった。

「代表選手たちが今年取り組むべき課題の内容は、すでにクラウチ氏とバグマン氏が検討し終えておる」ダンブルドアが言った。
フィルチが、木箱をうやうやしくダンブルドアの前のテーブルに置いた。
「さらに、おふた方は、それぞれの課題に必要な手配もしてくださった。課題は三つあり、今学年一年間にわたって、間を置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される__魔力の卓越性たくえつせい__果敢かかんな勇気__論理・推理力__そして、言うまでもなく、危険に対処する能力などじゃ」
この最後の言葉で、大広間が完璧に沈黙した。
息する者さえいないかのようだった。

「皆も知ってのとおり、試合を競うのは三人の代表選手じゃ」
ダンブルドアは静かに言葉を続けた。
「参加三校から各一人ずつ。選手は課題の一つひとつをどのように巧みにこなすかで採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が、優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者……『炎のゴブレット』じゃ」
ここでダンブルドアは杖を取り出し、木箱の蓋を三度軽く叩いた。
蓋は軋みながらゆっくりと開いた。
ダンブルドアは手を差し入れ、中から大きな荒削りの木のゴブレットを取り出した。
一見いっけんまるで見栄えのしないさかずきだったが、ただ、そのふちから溢れんばかりに青白い炎が踊っていた。

ダンブルドアは木箱の蓋を閉め、その上にそっとゴブレットを置き、大広間の全員によく見えるようにした。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補のこころざしある者は、これから24時間の内に、その名を提出するよう。明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは、各校を代表するに最もふさわしいと判断した三人の名前を、返してよこすであろう。このゴブレットは、今夜玄関ホールに置かれる。我と思わん者は、自由に近づくがよい」

「年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう」ダンブルドアが続けた。
「『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたなら、その周囲にわしが『年齢線』を引くことにする。17歳に満たない者は、何人もその線を超えることはできぬ。
最後に、この試合で競おうとする者にはっきり言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』がいったん代表選手と選んだ者は、最後まで試合を戦い抜く義務がある。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。代表選手になったからには、途中で気が変わるということは許されぬ。じゃから、心底、競技する用意があるのかどうか確信を持った上で、ゴブレットに名前を入れるのじゃぞ。さて、もう寝る時間じゃ。皆、おやすみ」

「『年齢線』か!」
みんなと一緒に大広間を横切り、玄関ホールに出るドアのほうへと進みながら、フレッド・ウィーズリーが目をキラキラさせた。
「うーん。それなら『老け薬』でごまかせるかな?いったん名前をゴブレットに入れてしまえば、もうこっちのもんさ__17歳かどうかなんて、ゴブレットにはわかりゃしないさ!」

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