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第17章 スリザリンの継承者 7

ハリーは「秘密の部屋」の暗い壁にぶつかるまで、あとずさりした。目を固く閉じたとき、フォークスが飛び立ち、翼が頬を擦るのを感じた。ハリーは「僕を一人にしないで!」と叫びたかった。しかし、蛇の王の前で、不死鳥に勝ち目などあるだろうか?

何か巨大なものが部屋の石の床に落ち、床の振動が伝わってきた。何が起こっているのかハリーにはわかっていた。感覚でわかる。巨大な蛇がスリザリンの口から出てきて、とぐろを解いているのが目に見えるような気がした。リドルの低いシューッという声が聞こえてきた。
あいつを殺せ
バジリスクがハリーに近づいてくる。埃っぽい床をズルッズルッとずっしりした胴体を滑らせる音が聞こえた。ハリーは目をしっかり閉じたまま、手を伸ばし、手探りで横に走って逃げようとした。リドルの笑う声がする…。

ハリーはつまずき、石の床でしたたかに顔を打ち、口の中で血の味がした。毒蛇はすぐそばまで来ている。近づく音が聞こえる。
ハリーの真上で破裂するようなシャーッシャーッという大きな音がした。何か重い物がハリーにぶつかり、その強烈な衝撃でハリーは壁に打ちつけられた。今にも毒牙が体にズブリと突き刺さるかと覚悟したとき、ハリーの耳に狂ったようなシューシューという音と、何かがのた打ち回って、柱を叩きつけている音が聞こえた。

もう我慢できなかった。ハリーはできるだけ細く目を開け、何が起こっているのか見ようとした。
巨大な蛇だ。テラテラと毒々しい鮮緑色の、樫の木のように太い胴体を、高々と宙にくねらせ、その巨大な鎌首は酔ったように柱と柱の間を縫って動き回っていた。ハリーは身震いし、蛇がこちらを見たら、すぐに目をつぶろうと身構えたそのとき、ハリーはいったい何が蛇の気を逸らせていたのかを見た。

フォークスが、蛇の鎌首の周りを飛び回り、バジリスクはサーベルのように長く鋭い毒牙で狂ったように何度も空を噛んでいた。
フォークスが急降下した。長い金色のくちばしが何かにズブリと突き刺さり、急に見えなくなった。その途端、どす黒い血が吹き出しボタボタと床に降り注いだ。毒蛇の尾がのたうち、あやうくハリーを打ちそうになった。ハリーが目を閉じる間もなく蛇はこちらを振り向いた。ハリーは真正面から蛇の頭を__そして、その目を見た。大きな黄色い球のような目は、両眼とも不死鳥に潰されていた。おびただしい血が床に流れ、バジリスクは苦痛にのたうち回っていた。

違う!」リドルが叫ぶ声が聞こえた。「鳥にかまうな!ほっておけ!小童こわっぱは後ろだ!臭いでわかるだろう!殺せ!
盲目の蛇は混乱して、ふらふらしてはいたが、まだ危険だった。フォークスが蛇の頭上を輪を描きながら飛び、不思議な旋律を歌いながらバジリスクの鱗で覆われた鼻面をあちこち突ついた。バジリスクの潰れた目からは、ドクドクと血が流れ続けていた。
「助けて。助けて。誰か、誰か!」ハリーは夢中で口走った。
バジリスクの尾が、また大きく一振りして床の上を掃いた。ハリーが身をかわしたそのとき、何か柔らかいものがハリーの顔に当たった。

バジリスクの尾が「組分け帽子」を吹き飛ばしてハリーの腕に放ってよこしたのだ。ハリーはそれをしっかりつかんだ。もうこれしか残されていない。最後の頼みの綱だ。ハリーは帽子をぐいっとかぶり、床にぴったりと身を伏せた。その頭上を掃くように、バジリスクの尾がまた通り過ぎた。
「助けて…助けて…」帽子の中でしっかりと目を閉じ、ハリーは祈った。「お願い、助けて」
答えはなかった。しかし、誰かの見えない手がぎゅっと絞ったかのように、帽子が縮んだ。

固くてずしりと重いものがハリーの頭のてっぺんに落ちてきた。ハリーは危うくノックアウトされそうになり、目から火花を飛ばしながら、帽子のてっぺんをぐいっと脱いだ。
何か長くて固いものが手に触れた。

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