見出し画像

第17章 スリザリンの継承者 5

「わかったかね?」リドルがささやいた。
「この名前はホグワーツ在学中にすでに使っていた。もちろん親しい友人にしか明かしていないが。汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい?母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れているこの僕が?汚らしい、俗なマグルの名前を、僕が生まれる前に、母が魔女だというだけで捨てたやつの名前を、僕がそのまま使うと思うかい?ハリー、ノーだ。僕は自分の名前を自分でつけた。ある日必ずや、魔法界のすべてが口にすることを恐れる名前を。その日が来ることを僕は知っていた。僕が世界一偉大な魔法使いになるその日が!」

ハリーは脳が停止したような気がした。麻痺したような頭でリドルを見つめた。この孤児の少年がやがて大人になり、ハリーの両親を、そして他の多くの魔法使いを殺したのだ。
しばらくしてハリーはやっと口を開いた。
「違うな」静かな声に万感の憎しみがこもっていた。
「何が?」リドルが切り返した。
「君は世界一偉大な魔法使いじゃない」ハリーは息を荒げていた。
「君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ。みんながそう言っている。君が強大だったときでさえ、ホグワーツを乗っ取ることはおろか、手出しさえできなかった。ダンブルドアは、君が在学中は君のことをお見通しだったし、君がどこに隠れていようと、いまだに君はダンブルドアを恐れている」
微笑みが消え、リドルの顔が醜悪になった。
「ダンブルドアは僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城からいなくなった!」
リドルは歯を食いしばった。
「ダンブルドアは、君の思っているほど、遠くに行ってはいなぞ!」ハリーが言い返した。
リドルを恐がらせるために、とっさに思いついた言葉だった。本当にそうだと確信しているというよりは、そうあって欲しいと思っていた。

リドルは口を開いたが、その顔が凍りついた。
どこからともなく音楽が聞こえてきたのだ。リドルはくるりと振り返り、がらんとした部屋をずっと奥まで見渡した。音楽はだんだん大きくなった。妖しい、背筋がぞくぞくするような、この世のものとも思えない旋律だった。ハリーの毛はザワッと逆立ち、心臓が二倍の大きさに膨れ上がったような気がした。やがてその旋律が高まり、ハリーの胸の中で肋骨を震わせるように感じたとき、すぐそばの柱の頂上から炎が燃え上がった。

白鳥ほどの大きさの深紅の鳥が、ドーム型の天井に、その不思議な旋律を響かせながら姿を現した。孔雀の羽のように長い金色の尾羽を輝かせ、まばゆい金色の爪にボロボロの包みをつかんでいる。

一瞬の後、鳥はハリーの方にまっすぐに飛んできた。運んできたボロボロのものをハリーの足元に落とし、その肩にずしりと止まった。大きな羽をたたんで、肩に留まっている鳥を、ハリーは見上げた。長く鋭い金色の嘴に、真っ黒な丸い目が見えた。

鳥は歌うのをやめ、ハリーの頬にじっとその暖かな体を寄せてしっかりとリドルを見据えた。
「不死鳥だな…」リドルは鋭い目で鳥をにらみ返した。
フォークスか?
ハリーはそっと呟いた。すると金色の爪が、肩を優しくぎゅっとつかむのを感じた。
「そして、それは__」リドルがフォークスの落としたぼろに目をやった。
「それは古い『組分け帽子』だ」
その通りだった。つぎはぎだらけでほつれた薄汚い帽子は、ハリーの足元でぴくりともしなかった。

リドルがまた笑いはじめた。その高笑いが暗い部屋にガンガン反響し、まるで十人のリドルが一度に笑っているようだった。
「ダンブルドアが味方に送ってきたのはそんなものか!歌い鳥に古帽子じゃないか!ハリー・ポッター、さぞかし心強いだろう?もう安心だと思うか?」
ハリーは答えなかった。フォークスや「組分け帽子」が、なんの役に立つのかはわからなかったが、もうハリーは一人ぼっちではなかった。リドルが笑いやむのを待つうちに、ふつふつと勇気がたぎってきた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?