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第8章 「太った婦人」の逃走 4

終業のベルが鳴ったが、ハリーはマクゴナガル先生にどう切り出すか、まだ迷っていた。
ところが、先生の方からホグズミードの話が出た。

「ちょっとお待ちなさい!」みんなが教室から出ようとするのを、先生が呼び止めた。
「みなさんは全員わたくしの寮の生徒ですから、ホグズミード行きの許可証をハロウィーンまでにわたくしに提出してください。許可証がなければホグズミードもなしです。忘れずに出すこと!」
「あのー、先生、ぼ、僕、なくしちゃったみたい__」ネビルが手を挙げた。
「ロングボトム、あなたのおばあさまが、わたくしに直送なさいました。その方が安全だと思われたのでしょう。さあ、それだけです。帰ってよろしい」

「いまだ。行け」ロンが声を殺してハリーを促した。
「でも、ああ__」ハーマイオニーが何か言いかけた。
「ハリー、行けったら」ロンが頑固に言い張った。
ハリーはみんながいなくまるまで待った。
それからドキドキしながらマクゴナガル先生の机に近寄った。

「なんですか、ポッター」
ハリーはふかーく息を吸った。
「先生、おじ、おばが__あの__許可証にサインするのを忘れました」
マクゴナガル先生は四角いメガネの上からハリーを見たが、何も言わなかった。
「それで__あの__だめでしょうか__つまり、かまわないでしょうか、あの__僕がホグズミードに行っても?」
マクゴナガル先生は下を向いて、机の上の書類を整理しはじめた。
「だめです。ポッター。いまわたくしが言ったことを聞きましたね。許可証がなければホグズミードはなしです。それが規則です」
「でも__先生。僕のおじ、おばは__ご存知のように、マグルです。わかってないんです__ホグワーツとか、許可証とか」
ハリーのそばで、ロンが強くうなずいて助っ人をしていた。
「先生が行ってもよいとおっしゃれば__」
わたくしは、そう言いませんよ」マクゴナガル先生は立ち上がり、書類をきっちりと引き出しに収めた。
「許可証にはっきり書いてあるように、両親、または保護者が許可しなければなりません」
先生は向き直り、不思議な表情を浮かべてハリーを見た。哀れみだろうか?
「残念ですが、ポッター、これが私の最終決定です。早く行かないと、つぎのクラスに遅れますよ」

万事休す。ロンがマクゴナガル先生に対しての悪口雑言あっこうぞうおんのかぎりをぶちまけたので、ハーマイオニーがいやがった。
そのハーマイオニーの「これでよかったのよ」という顔がロンをますます怒らせた。
一方ハリーは、ホグズミードに行ったらまず何をするかと、みんなが楽しそうに騒いでいるのをじっと耐えなければならなかった。
「ご馳走があるさ」ハリーを慰めようとして、ロンが言った。
「ね、ハロウィーンのご馳走が、その日の夜に」
「ウン」ハリーは暗い声で言った。
「すてきだよ」

ハロウィーンのご馳走はいつだってすばらしい。でも、みんなと一緒にホグズミードで一日過ごしたあとで食べる方がもっとおいしいに決まっている。
誰がなんと慰めようと、一人ぼっちで取り残されるハリーの気持ちは晴れなかった。
ディーン・トーマスは羽ペン使いがうまかったし、許可証にバーノンおじさんの偽サインをしようと言ってくれた。しかし、ハリーはもう、マクゴナガル先生にサインがもらえなかったと言ってしまったので、この手は使えない。
ロンは「透明マント」はどうか、と中途半端な提案をしたが、ハーマイオニーに踏み潰された。ダンブルドアが、吸魂鬼ディメンターは透明マントでもお見通しだと言ったじゃない、とロンに思い出させたのだ。
パーシーは慰めにならない最低の慰め方をした。
「ホグズミードのことをみんな騒ぎ立てるけど、ハリー、僕が保証する。評判ほどじゃない」
真顔でそう言った。
「いいかい。菓子の店はかなりいけるな。しかし、ゾンコの『いたずら専門店』は、はっきり言って危険だ。それに、そう、『叫びの屋敷』は一度行ってみる価値はあるな。だけど、ハリー、それ以外は、ほんとうに大したものはないよ」

ハロウィーンの朝、ハリーはみんなと一緒に起き、なるべく普段通りに取り繕って、最低の気分だったが、みなと朝食に下りていった。
「ハニーデュークスからお菓子をたくさん持ってきてあげるわ」ハーマイオニーが、心底気の毒そうな顔をしながら言った。
「ウン、たーくさん」ロンも言った。
二人は、ハリーの落胆ぶりを見て、クルックシャンクス論争をついに水に流した。

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