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通行人を顧客にする

当店の売場を指して「通路の真ん中に置いてある棚が邪魔だ」と言われたことがある。正確にはとあるネットの書き込みの一文なのだが、人によって見える風景とはこうも違うものなのかと傷つきつつ、少しだけ感心した。

当店は立地条件がやや特殊で、駅直結型だ。エキナカでもなく駅前でもない。改札抜けたらすぐ店舗、は大阪の鶴橋駅に隣接していたブックオフくらいしか知らない。当店の場合、改札と駅の外とをつなぐ南北に伸びた連絡路のような場所に、通路を両側から挟み込むようにして売場が存在する。ホットドッグのソーセージを挟むパン生地を想像していただけたらいいかと思う。

駅を利用する通行人の方からすると、『両側に本棚とカフェ席がある通路』といった認識なのだろう。それに対し私の認識は『売場の真ん中を人が往来している』だ。同じ風景を見ている筈なのに、立ち位置が違うと全く違った場所に感じられる。なんとも癖のある書店だ。

昨年の春に着任して早々面食らったのは人の往来の激しさだ。カウンターから対岸にある事務所(対岸と表現してしまうのもどうかと思うが)に移動するのに、通行人とぶつからないように通路の左右を確認してからでないと進めないのだ。彼らの歩く速度は外のそれと変わらない。朝7時に開店と同時に入り口が解放され、列をなして改札に向かう人の波。そして、夕方の帰宅ラッシュ時は双方から人が行き交う。当店の主導線は売場の中央を流れる川のようだ。

唐突だが、売上をつくる要素のひとつとして買上率というものがある。店前通行量に対してどれくらいの人が商品を購入されていくのかが買上率だ。当店はその買上率が異常に低い。店の真ん中を突っ切るので当店の場合は店内通行量と呼んだほうが正確か。

通勤通学で利用されている方にとって、毎日目にする当店の売場はいつも変わらず同じ風景に見えることだろう。実際には雑誌は毎月入れ替わるし、平台の商品も季節ごとに変化はしている。しかし、週に4,5日くらい通っているとそんな変化は気が付かないレベルの事なのだと思う。

売場に人は溢れているのにレジは空いている。いつしか脳内で売場にいる人影を『通行人』と『当店の顧客』とで見分けるようになった。通り過ぎていく人たちは売場の風景から自然と消えてしまうような感じだ。

駅の乗降者数は店舗の努力で変わることはないが、この店内の『通行人』をいかにして『当店の顧客』にするか、つまり買上率を上げるにはどうすればいいか、私と店長は常にそのことを考えて売場に手を入れている。『おっ!?』と目に留まるような見せ方や、何か所にも分けて仕掛けたい本を陳列して、どこでも手に取れるように工夫したりしている。

朝と夕方の通勤ラッシュ時は主導線上を流れる人の速度が速い。平台をじっくり眺める余裕があまりない。さっと手に取れる商品が分かりやすく置いていないと気付いてもらえない。主導線には目的買いの商品を集め、両サイドは棚をゆっくり見てもらう。

主導線にある平台はお店のカラーを出すのに有効で、且つ通過する人たちにもすぐ気づいてもらいやすいので各ジャンル担当者と相談して色々仕掛けている。『通行人』が足を止め、商品を見てくれているのをこっそり遠くから覗いて静かに喜んでいる。

テント008

大阪の店舗に居たとき、店内にテントを張ってアウトドアの本を販売したことがあるが、今の店舗だとスペースに余裕がないのでテントを張るのは諦めた。販売用に自転車をディスプレイしたいと画策してみたがいまだ実現には至っていない。「本屋なのに○○」と世間では言われそうだが、本屋の定義はもっと広くていいと思っている。

店長はいつか主導線全体を使って日曜日に野菜を売るマルシェを開きたいと言っていたから、私の自転車構想など大人しいほうだ。

マルシェが先か自転車が先か。









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書店員。