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客層は店側がつくる

4年前のオープン時から在籍しているスタッフさんとの雑談で、オープンしてから3ヶ月くらいはお客さんが怖かった、という話を聞いた。どんな方向から質問が飛んでくるか予測できなかったからだ。

当時はお客様からの問い合わせに答えられずお叱りをよく受けていたそうだ。中には言い掛かりのようなものも含まれる。
よくある厄介な問答として、在庫がないことに対して過剰に怒りだす例がある。書店に対する期待の裏返しである。

酷い話だが、オープン直後に視察に来て「なんでうちの雑誌が置いてないんだ!ないわけがないだろう!」と怒鳴って帰っていった某版元の偉そうな人もいたそうだ。営業職の人間ではないと信じたい。なんで置いてないかと言われれば、申し訳ないが当店の売場のコンセプトに合わなかったからだ。書店にも自店で扱うかどうか選ぶ権利がある。売場が狭いことも理由の一つだろうけど。それはさておき、自社製品がないからと言って素人同然の駆け出し書店員に怒鳴りつけるのはいかがなものだろうか。

別の店舗で文具売り場の立ち上げを行ったときは、私も文具スタッフも文具の基礎知識しか持ち合わせていなかったので、高級筆記具のお問い合わせが毎回怖かった。その店はモンブランを扱っていた。それだけで筆記具好きな人は、(この店は高級筆記具について詳しいスタッフがいる)と判断する。そして、通り一遍の説明しかできない我々を悲しい目で見て帰っていくのだ。

全方向から砲撃を喰らう覚悟で文具カウンターに立っていたあの頃を経験しているので、今の店のスタッフのオープン当時の『恐れ』はよくわかる。実際カウンターが、全方位壁がなく売場の中に浮かぶ小島のように配置されていたから、常に背中の気配とか感じ取らなくてはいかず緊張がいつまでも解けないでいた。

ただ最初の2,3か月を過ぎると興味本位で来られたお客さんは少しずつ減り、短い期間ながらみんなの経験談を重ね合わせると自分たちで対応できることも増えてきた。そのころには勤務中にもスタッフの顔に笑みが浮かぶようになった。

実際のところ、本も文具も基本的にお客さんのほうが詳しい。

このことは文具担当になって筆記具を扱うようになってよくわかった。そして、高級筆記具を好む人たちは我々が今学んでいる最中だとわかると逆にいろいろ教えてくれるようになった。彼らは自分の好きな領域の事を話す場が欲しかったのだろうと思う。

商品に詳しければ絶対そのほうが良い接客は出来る。しかし、じゃあ読んだことがない本や使ったことがない筆記具について語ることは出来ないかというとそうではない。知らないことを正直に伝え、一緒に調べたりその時にできる最大限のことを行う姿勢が大切なのだ。

オープンしてから4年がたち、厄介なお客様は減ったという。それは彼女たちの働く姿勢が、相性の良くない人たちを遠ざけることができたからに違いない。

棚の品揃えについては時々悲しくなるようなツイートを見ることがあるが、接客面で何かマイナスになるようなツイートは一切目にしない。有難いことだ。

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