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【創作】元宮ワイナリー黎明奇譚 X年後

 新作のシードルで乾杯した後、大沼は眼下の葡萄畑、そして遠くに見える市街地に視線を移した。
「この風景、まるで狙ったかのような美しさですが、偶然の産物だなんて、不思議ですよね」
矢吹はグラスを傾け、黄金色に輝く液体を飲み干して同意した。
「当初の計画では、葡萄畑じゃなくて駐車場だったからね。不思議な話だよ。けどまぁ、あの時はいろんなことが、奇跡的にうまくいった」
微笑みながら、シードルを大沼のグラスに注ぐ。大沼は溢れそうなグラスに口を寄せる。
「あの時期に、矢吹さんがあそこの係長で居てくれたことが奇跡でした。ほんと、お世話になりました」
 おどけた調子で頭を下げる。
「大沼君は面倒な仕事を、全部丸投げしてくれたからなぁ。そういうのが得意なのは知ってたけど。けど、そのおかげで、今、こうして美味い酒が飲めるんだから赦す」

 人が立ち入ることができないような荒地だった場所に、今はワイナリーがあり、人が集い笑顔を見せる。美味い酒を飲むことができる。
 2014年6月には誰も想像していない景色が、二人の前に広がっていた。

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「今、もう一回やれって言われても、できないでしょうね」
「たった2年の間に、ワイナリーを建設してワインを出荷するなんて、そんな馬鹿な話、有り得ないよ」
 笑いながら、共にグラスを干した二人の間を風が吹き抜ける。
(未完)

 と、まぁ、物語風に書いてみましたが、限界です。いつもの駄文モードに戻します。

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 タイミングが悪いことに、26日の午前中に激しい雨が降ってしまい、ふくしま逢瀬ワイナリーの「シードル千秋楽」というイベントは、来客者が少ない寂しいものとなってしまいました。
 けどまぁ、私たち二人は人が少ないのを良いことに、キッチンカーで購入したピザをツマミに、シードルのハーフボトル×2、赤・白のフルボトルを1本ずつ倒して、帰路に着きました。
 帰宅後は直行でベッドに倒れ込み、何もできない状態となりました。しばらくお酒は休もうと思います。

 今年のシードルも非常に良い出来でした。そして非常に危険な飲み物であることを再確認してきました。爽やかな林檎の香りと味わいで、口当りがよく、すぅっと体に入るのですが、アルコール度数は11~12度とストロング系よりも高いので、飲み干した後、しばらくしてから、ガツン!と酔いが回るのです。
「ちゃんと、味わいながら、ゆっくり飲みなさい」
と言われれば、それだけの話なのですが、気の置けない相手と昔話に花を咲かせながらとなりますと、そうも行かず二人でカパカパとグラスを空けることになりました。

 しかもですねぇ、今回同行した方も、昔からワイナリーの応援をしていますので、ただ美味しいということではなく
「あの時から、ここまで成長したか」
ということを共感できることが、また嬉しくて、杯を重ねてしまうことになりました。
 ワイナリーの経営は、決して平坦な道ではないと思うのです、スタッフや葡萄農家さんが入れ替わり、葡萄の栽培や販路に苦労しながらも、毎年クオリティーを上げてくるのです。葡萄の木の成長もあると思いますが、毎年どんどん美味しくなるのです。
 正直に申し上げれば「ワインの味」だけを考えると、同価格帯で美味しいワインは、他にも多くある気がします。ただ、地元の「誇れる酒」としての価値は、ますます大きくなっているとも考えています。

 なお、著作の話で恐縮ですが、「公タマ伝」に収録している「フロンティアミッション」、「恋する旅人」に収録している「題名のない物語」は、メインストーリーが、元宮ワイナリーと同じ、2014年4月~2016年3月の2年間という時間軸で動いています。「東日本大震災」から3年が経過して、「何かしなきゃ」という切迫感、焦燥感を抱きながら、主人公たちは奮闘しています。
 そして、「題名のない物語」の主人公 木元は、元宮ワイナリーに採用されたという設定です。私の中では、木元は大沼とも交流するようになったという後日談があります。どこにも収録していませんが、木元と大沼の外伝的な話がこちらです。

 この「木元と西野」の話、大沼も含めて「もう少し書きたいなぁ」と思いつつも、なかなか実現できずにいます。福島太郎の書き手としての大きな弱点の一つ
「男女の仲睦まじい姿、経験不足により書くことができない」
 が、未だに続いています。なので、どの作品も「デート」や「イチャイチャ」の場面がほとんど無いのです。また、初期は「ヘタレな男性」が多く「告白する場面」を書けずにいましたが、「会黎」でようやく、その殻を破ることができて、ちょっと安堵しました。

ちなみに、この会黎と元宮ワイナリー

 タイトルが似ているので「シリーズ物」みたいな誤解をされた方がいたら、ごめんなさい。お読みいただいた方は御承知のとおり、ジャンル的にも内容的にも、全く別な話になります。ただ、「黎明奇譚(綺譚)」というタイトルは「有」ということにしてください。黎明も奇譚(綺譚)も好きな言葉なのです。暗くて怪しい時間帯だけど、日は登る!みたいなワクワク感が好きなのです。

 さて、「フロンティアミッション(公タマ伝)」、「公民館物語(公タマ伝第2集)」、「元宮ワイナリー」の主人公が「公務員」ということもあり、「公タマ伝」「第2集」「元宮ワイナリー」までを「公務員三部作」と称することもあります。
 しかし、その後に書いた「水商売を始めた役場の話(恋する旅人)」、「夢見る木幡山」、「会津ワイン黎明奇譚」などにも、公務員キャラが登場します。
 自分で言うのも何ですが、私の作品に登場する「公務員キャラ」は「経験」が物を言い、イキイキと活動している気がします。ただ、私の作品はあくまでフィクションですので「あり得ない公務員像」です。
 ある意味では「抑圧された現実」に対して、「こうありたい」という理想的な姿を描いているのかもしれません。

 なお、上手いオチが付けられなかったので、「元宮ワイナリー」の外伝的な過去の投稿のリンクも埋めておきます。




 


 



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