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【創作SS】お好み焼き

 父の出稼ぎと母の入院が重なり、僕と姉さんが叔母さんの家に預けられていたのは小学三年の冬だった。

 父が一度だけ帰郷して、僕と姉さんと三人で母の見舞いに行った帰りに、初めてお好み焼き屋に寄った。
 初めて見るお好み焼きは「これを食べるの」と聞きたくなるくらい不思議な食べ物に見えたけど、温かくて香ばしくて美味しかったことを覚えている。

 ただ、その頃は「外食」と言えばラーメン屋だったのに、どうしてその時はお好み焼き屋だったのかをずっと不思議に思っていた。

 けど、この間家でお好み焼きを作った時に、あの時の父の気持ちがようやくわかった。娘が教えてくれたんだ。
 娘が僕の分を焼いてくれたんだけど、ホットプレートを前に眉を寄せて、ちょっと口を尖がらせて真剣に焼け具合を見つめている顔は、あの時の父にそっくりだった。ひっくり返して、焼き上げた時の台詞まで似ていた。
 たしか父さんは
「ソースな、いっぱいかけろ。その方が美味いからな」
て、言ったと思うけど、娘は
「ソースたくさんかけたよ。美味しくなるように」
と言っていた。思わず噴出しそうになった。父との話を教えたわけでもないのにね。

 無骨で不器用。家ではお湯一つ沸かしたことがなかった父だったけど、多分、あの時は自分で作ったものを僕と姉に食べさせたかったんだね。
 僕と姉さんが寂しい思いをしていると考え、がんばってくれたんだろ。

 あの時、父がお好み焼きにソースと一緒にかけてくれた家族への愛情は、僕の娘、父さんの孫にも伝わっていたよ。

 今度、遊びに行った時は、みんなでお好み焼きを食べよう、今度は僕が焼く。それとも、また、父に焼いてもらおうか。
 きっと、誰が焼いても美味しくできる気がする。

 我が家の伝統、愛情とソースをたっぷりかけるからね。

(本文ここまで)

 お題投稿ではない、創作ショートストーリーです。
「お題を書かなくちゃ」という縛りから逃げ出して、自由に書いてみました。
#何を書いても最後は宣伝
 「父の愛情」を強く作品に落とし込んでいるのが、こちらの「光流るる阿武隈川」です。


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