見出し画像

【創作SS】学校のカイダン3 スプラウト

 武志と絵里ちゃんが交際を始めたので、俺と理沙ちゃんと4人で帰ることが増えたけど、最後に駅のホームで理沙ちゃんと2人になる時間はちょっと気まずい。俺たちは友達でも無いし、二人とも社交的な感じでもなく、共通の話題もない。
 沈黙が重たい。

「一つ、聞いてもいいですか」
理沙ちゃんが話しかけてきた。あらたまって何だろう。
「絵里が佐藤先輩を階段から突き飛ばした時、何で怒らなかったんですか。非道いことされたのに」
何だ、そんなことか。ちょっと緊張したけど拍子抜けだな。
「怒って良いことがあるなら怒るけど、何も良いことないじゃない。絵里ちゃんも武志も、見ている理沙ちゃんだって、嫌な想いをするよね。だったら怒らない方がいいかなっと」
「あの一瞬でそんなこと、考えたんですか。じゃぁ、今、私が佐藤先輩を線路に落としても、怒らないんですか」
「そんなことされたら、怒るよ」
俺は笑いながら答えた。理沙ちゃんはサイコ気味なんだろうか。返事に気をつけよう。俺はスマホを操作して電子書籍の画面を開いた。
「この本に、こんなセリフがあるんだ。『理不尽は受け止めるけど、悪意は赦しちゃいけない』。それで考えると「絵里ちゃんに突き飛ばされたのは、事故で悪意は無い。理不尽だけど受け止めた。だけど、ここで、理沙ちゃんが故意に俺を落とすのは、「悪意」と感じて怒るよ」
「そうですか、悪意で、故意に落とすのは駄目ですか」
「駅で働く人たちにも迷惑をかけるし」
「佐藤先輩は大人ですねぇ。さっきの本、面白かったですか。ちょっと読んでみたいです。もう一度見せてもらえますか」
俺はスマホの画面をもう一度開いた。
「本は嗜好品だから、好みに合うかわかんないけど。「スプラウト」っていう本」
「面白かったら感想を送ります。LINE交換しますか」

 理沙ちゃんに、線路には落とされなかったけど、恋に落とされた。
 梨沙ちゃんはサイコじゃなくて、最高の恋人になった。
(本文ここまで)

#何を書いても最後は宣伝
 本作に登場する「スプラウト」はこちらです。


サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。