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【創作SS】ヒマワリ一考 #シロクマ文芸部

『ヒマワリへの考察が足りない印象です』
教授からのメール、冒頭に書かれていた文字を見て愕然とした。予想はしてたけど厳しい指摘だった。
 うちのゼミでは「平和」を目指して「哲学」の研究をしているけど、教授がよくおっしゃる
「子ども向けの漫画やアニメなどのコンテンツ、制作しているのは「大人」です。ですから「大人から子供に伝えたい大切なメッセージ」が多く含まれていると考えています。
 一例を上げれば「正義」「勇気」「愛」「平和」などでしょうか。
 どんな逆境においても、主人公はあきらめず、智恵や勇気、絆や友情を駆使して困難を克服していきます。ある意味では、
「君たちはどう生きるか」
を問いただしているようです」
というお話の影響もあり、卒論のテーマとして「子ども向けコンテンツ」を選ぶゼミ生も多い。

 僕はそこから一捻りして「もともと大人向け漫画なのに子どもが主人公で、ちょっと下品だけど、いつの間にか全世代型国民的アニメに成長したコンテンツ(映画版)」を題材に選んだ。
僕の選んだ題材に対して、へそ曲がりな教授にしては珍しく、
「大人向けから全世代向けへとメタモルフォーゼした漫画を基にしたアニメとは、なかなか良い視点ですね。高橋君のメタモルフォーゼにも、期待しています」
と笑顔でおっしゃっていただいた。ただ、教授の口癖の一つに
「笑顔で近づいて来るものほど、警戒が必要です」
があることは良く知っている。もちろんメタモルフォーゼが日本語では「変態」と訳されることも十分に知っている。もちろん僕は変態じゃない。

 気を取り直し、画面をスクロールさせて続きを読む。
「取り上げた作品に「ヒマワリ」が存在する意味について、高橋君の論文では「守られるべき存在」という視点が強く出ています。
 確かに、乳幼児であり自立歩行も困難な彼女は、兄に守られる場面が多く描かれています。兄としての家族愛や限界を超えた力を引き出す触媒のような役割を担う存在です。
 しかし、それだけで良いのでしょうか。
 高橋君は「主人公とその妹(ヒマワリ)」という設定に縛られているように感じます。主人公は国民的キャラクターであり絶対的な存在です。一方で、ヒマワリは作品においては「主人公の妹」ですが、その存在意義を問いながら、実存として捉えようとした場合
「ヒマワリはヒマワリでありヒマワリだからヒマワリであるべきであり、ヒマワリという価値を具現化する絶対的な存在」
とは言えないでしょうか。「主人公の妹」というのは属性の一つにすぎません。

 原作においてですが、彼女は初登場時から主体的に行動しており、例えば命名時には自ら行動することで名を選びとりました、その他にも「イケメン好き」を体現するなど、様々な場面で自我や存在を主張しています。そういう意味では「兄に守られている」と同時に「兄に守らさせている」とも言えるかもしれません。これは私なりの解釈であり絶対的な意見ではありません。
 ただ、映画版を深く理解するためには「映画で見える世界観」だけではなく、テレビ版や原作漫画への理解も必要ではないでしょうか。
 見える世界が全てではなく、見えない世界も存在する、それが実存です。その世界を繋ぐことができるのが、私たちの想像であり創造です。

 このような視点を踏まえ、卒論を「書かされている」「修正させられている」のではなく主体的に「書いている」「修正している」という位置づけで論文を再提出されることを期待します。
 なお、今回の第1稿の内容でも「可」という評価をします。単位に値する論文でしたので、単位取得だけが目的であれば、修正する必要はありません。
 しかし、高橋君が「より善き世界」の構築、その究極である世界平和を目指すのであれば、卒論の創作を、人生の創造を楽しんでください。
 第1稿に対して私からは以上です。

 僕はパソコンのモニターから目を外して、汚い天井を見上げた。期待されなくていいと感じながら、もっと書きたいという気持ちが湧き上がる。楽しくて苦しい世界。

 それにしても、国民的アニメとは言え、その内容や「ヒマワリ」というキャラクターを詳細に知っているような教授の指摘、
「教授は常にメタモルフォーゼという存在である」ことを感じながら、口癖の一つを思い出した。
「閑 ワリとですがね」

(本文ここまで)

 本稿の中で教授の考えとして書いた
『子ども向けの漫画やアニメなどのコンテンツ、制作しているのは「大人」です。なので「大人から子供に伝えたい大切なメッセージ」が多く含まれていると考えています。
 例えば、「正義」「勇気」「愚直」などがあります。
 どんな逆境においても、主人公はあきらめず、智恵や勇気、絆や友情を駆使して困難を克服していきます。ある意味では、「君たちはどう生きるか」を問いただしているようです』
という部分は、こちらの本からお借りしてアレンジしました。

 この投稿の前に、久しぶりに「メガネレンジャー」を登場させましたので、その流れでオリジナルキャラ「教立大学」を使いたくなり、本稿となりました。
 そろそろ教授の容姿や名前を決めた方がよいかもしれません。
 もしかしたら、お読みいただいた何人かの方は「柳沢教授」をイメージしているかもしれません。

 ちなみに、前稿は「ヒマワリへーんしん」という言葉、本稿は「ヒマワリへの考察」という言葉を使いたいという気持ちだけで、プロットもオチも考えずに書き始めました。

 毎回のことながら、ちゃんと完結できるのかヒヤヒヤしています。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

 なんと、
#シロクマ文芸部
一日で朝昼晩の三投稿です。

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