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【創作SS】平和とは #シロクマ文芸部

「平和とは実に不思議な言葉です。武田君『日本は平和ですか』」
研究室で教授が唐突に問いかけた。
「はい、平和です。戦後70年を超えています」
教授は表情を変えずに
「ゼミ長、君の考えは」
「ほんの一部、平和です」
「結構。二人とも正解と言えるでしょう」
教授の言葉を武田が遮る。
「教授、そもそも平和とは、なんなんでしょうか」教授はカッと、目を開いた。

「武田君、素晴らしい。私は最初に言いました「平和とは不思議な言葉である」、つまり平和という言葉の概念を定義、あるいは共通理解としなければ、本質的な解もあり得ないのです。では、あらためて尋ねます。千原君、君が考える平和とは」

ゼミ一年目の千原は、無茶振りに顔を紅潮させながら答えた。
「き、狭義で言えば、大規模な組織団体による戦闘行為が行われていない状況、で、広義で言えば市民が安心安全に暮らしている社会ではないでしょうか」
読みやすくするために、文章としては流暢に書いたが、実際の千原は、汗かき、吃り、詰まりながら答えていた。

「ありがとう、実に良い答えでした。特に狭義と広義という概念が素晴らしいです。
 しかし、現実はさらに複雑で残酷です。
 正直に申し上げて、私も「平和」を定義できていませんので「今の日本が平和か」と聞かれたらゼミ長と同じく「ほんの一部、平和」と応えるでしょう。
 皆さんと、こうして穏やかに過ごせることは有り難いことで、平和なればこそです。しかし」
教授はゼミ長にアイコンタクトして発言を促し、ゼミ長が続けた。
「日本では戦闘は行われていませんが、国同士の戦闘、所謂戦争状態にある国家の一方を支援し、一方に制裁をしています。これは戦争に加担していると考えます。
 また、先ほど武田君が「戦後」と発言し、第二次世界大戦を指していると感じましたが、あの敗戦後、領土を確定する和平条約が締結されていない国もありますし、我が国の広い範囲で異国に占領された土地、基地があり治外法権となり主権が侵害されたままです。
 つまり、敗戦は受け入れているが、終戦はしていないと考えています」

 教授は厳しい表情を浮かべた。
「要約すれば、平和、ほんの一部。ということになると思いますが、ゼミ長、更なる成長を期待します。
 今の発言は、私がこれまで何度かお話した内容そのままです。皆さんには、その先を期待しています。

 平和とは何か、そのために何をするか、考え行動し続けること。つまり
#地には平和を人には愛を
というテーゼを考え続けることが、このゼミの存在意義であり、皆さんと私が共にいる意味と考えています。これからも平和な未来の実現に向け、共に歩みをお願いします。
・・・しかし、本日、大きな問題が生じました」

  教授は話を止め、厳しい表情を浮かべた。
「小牧部長のお題に釣られて真面目に語ったせいで『唐突に訳のわからない発言をする教授』という私のキャラ、存在意義が壊れてしまいました」
哀しみを隠そうとしない教授をゼミ長が励ました。
「教授、大丈夫です。我々には、あの偉人が遺してくださったお言葉があります。ほんの一部平和も、教授のキャラ崩壊も救済する、あの言葉が」

全員が声を揃えて、教授にエールを贈る。
『これでいいのだ』

日本はともかく、教立大学は本日も平和。
(本文ここまで)

小牧幸助さんの
#シロクマ文芸部

に参加しています。やっつけ気味でお題を深堀りできていませんが『参加することに意義がある』です。
この慣用句の背景には「冷戦と平和の祭典」があると聞いていますが、それは常識なんでしょうか。
#地には平和を人には愛を




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