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【創作】タイタニックごっこのつもりが組体操に #下書き再生工場

 こちらの企画に参加です。

お題は「uniさん」
#タイタニックごっこのつもりが組体操に  

です。以下、本文です。

(また、やってやがる)
 日本の豪華客船、日光丸の甲板員 高橋は舳先の方を見て心の中で毒づいた。古い映画だというのに、今でも真似して、海に向かい両手を広げる女とその後ろで腰を支える男の姿が時々目に入る。いわゆる「タイタニックごっこ」である。
(まぁ、ちょっとした夢なんだろうけど、船が沈没する話だからいつ見てもいやな気分だぜ)
そう思いながら、仕事に戻ろうととした瞬間、
「ギャーーーーッチ」
絹を裂くような女性の声が響き、高橋は再び舳先の2人へと視線を戻した(まさか、落ちたか)。という懸念はすぐに消えた。2人はまだ同じポーズで立っていた。しかし2人の視線の先には巨大な氷山が姿を現していた。
(レーダー担当は何をしている!このままじゃぁ衝突するゾ、何て悪夢だ)

 高橋が操舵室に向かうのと入れ違いのように、女性の悲鳴を聞きつけた数人の乗客が甲板に出てきて、その原因を目の当たりにした。

 ゆっくりゆっくりと氷山はその姿を大きくしていく。
 日光丸は回避行動を始めたが氷山を見ていた誰もが(このままでは、ぶつかる)との想いを抱いた。
「救命ボートで逃げるんだ」
誰かの声が響いた。あまりの衝撃に思考を奪われていた乗客たちは、その声に我に返った。
「てやんでぃ!消防署第2小隊集合」
野太い声に続き、「オオー」という鬨の声があがる。
「これより梯子と人間梯子で、あの氷山を押し返すぜ!いいな」
「了解」
数人の男たちが一旦姿を消し、梯子を持って舳先へと向かった。梯子を立て、梯子を持って駆け上がり、その上に梯子を立て、梯子をもって駆け上がることを繰り返し、瞬く間に見上げる高さになった。氷山に向かって人間梯子が倒れていく。
「クレイジー」
「カミカゼアタック」
見ていた乗客から声が漏れた。
その後に消防隊を心配し、無理だ、無駄だ、止めろ、逃げろなどの声が響いた。
それらの声に反発するように、人間梯子の根本を支える隊長が叫んだ。
「人の命を最後まで諦めない、それが、消防ダ、いやヤマトダマシイだ」

 この間にも氷山は近づき、船は回避しようとするが、距離は縮まるばかりだった。
「ウォォォォォォォォッォッ」
野獣の咆哮が響いた。
「これがアメリカのフロンティアスピリットだ!」
巨体が人間梯子を書け上がり氷山へと体当たりをした。
「ドケー、アメ公!」
言葉は悪いが、どこか温かい色を載せた言葉を放ち色黒の青年が続いて駆けあがり、逆立ちをするような恰好で蹴りを放った。
 カポエイラキックである。上海雑技団、ニュージーランドのラガーマン、ムエタイの戦士など、屈強な男たちが続き、持てる力と魂を氷山に放った。

 氷山は静かに近づき、船との距離を縮めていく。
 人間梯子の消防隊は体を組み換え、梯子を2列3列と増やし抵抗していくが氷山は近づいてくる。

 甲板からは女性や子どもの歌が流れてきた。
「世界はせまい 世界は同じ 世界はまるい ただひとつ」
 誰も逃げ出そうとはしなかった、船上の魂が困難に立ち向かう勇気で一つになった。

 閃光!

 轟音!

 刹那、大きな光を浴びた氷山は船に激突する直前で
ガガガガガガガガ
という大きな響きとともに、粉々に砕け海に沈んだ。
 船は氷山のあった場所を静かに進んだ。

「ヤマトダマシイを、勇者たちを胴上げだ!」
 精魂尽き舳先で倒れこんでいた隊長を胴上げするために大勢の乗客が囲んだ。
「てやんでぃ!消防署第2小隊集合。力を貸してくれた皆さんに御礼の演武だ」
小隊長の掛け声とともに「梯子乗り」の演武が始まった。「鯱鉾」「唐傘」「背亀」

 最初は見ていた乗客たちも一緒に組み込まれ、いつの間にか全員で組体操が始まった。
「扇」、「サボテン」「タワー」「ヘリコプター」
タイタニックごっこをしていた2人も含め、乗客の心と体は一つになった。

 朝日が祝福するように船を包んでいた。
(おしまい)


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