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【創作SS】秋桜

 満開の秋桜の前で笑うキミを見ていると、楽しく嬉しいけれど、父のことを思い出して少し悲しくなる。

 物心ついた時から、「どうして」と聞きまくりたくなるくらい、ウチは貧乏だった。学校で何かお金が必要になっても、すぐには持っていけないし、他の子のようにオモチャを買ってもらうこともできなかった。
「何でこんな家に生まれてきてしまったのだろう」
と、何度も考えた。
 借家の前のちっちゃな庭に、秋になると秋桜が咲いた。手入れもしていないのに、毎年咲いていた。

 ある秋、庭を見ていると父が言った。
「お父さんは秋桜が好きなんだ。いっぱい花が咲くからな」
子どもの頃から貧乏で、満たされぬ父の心を埋めようとするのが秋桜だと知った。

 歳月が流れ、子どもの頃に借りていた家も、秋桜もなくなった。
 僕は人の親となった。
 ほんの少しだけど、貧乏からは離れたと思う。
 二歳のキミが、もう少し大きくなったら話してあげよう。

 貧しく不器用だけれど、精一杯の愛情でパパのことを育ててくれた、秋桜好きだったおじいちゃんのことを。

(本文ここまで)

 季節外れの作品を失礼しました。元原稿は「2001年10月」に作成していました。
 kindle出版している福島太郎の作品は「父子」という関係性も多いと感じていましたが、昔から抱いているテーゼの一つのようです。
#何を書いても最後は宣伝

 私の作品の中でも「父の想い」が一番強く描かれているのが、こちらの「光流るる阿武隈川」かと思います。

 

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