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ふくしま逢瀬ワイナリーのシードル

 ふくしま逢瀬ワイナリーで、最初に醸造されたのが「りんご」を材料としたシードルと「ぶどう」を材料としたロゼワインでした。
 復興支援事業という位置づけで事業がスタートするにあたり、「風評被害で売れない果物を活用できないか」という考えもあったようです。
 しかし、農家の方と語り合う中で、宿題を出されました。
「うちのリンゴは日本一美味しいんだよ。これで日本一美味しい、シードルというお酒を造って欲しい」
 東日本大震災から3年が経っていましたが、未だに風評被害はありました。しかし、その農家さんが望むのは、販路拡大とか在庫処理とかではなく「美味しいお酒を造って欲しい」ということだったのです。リンゴを取引するための値段とか数量のことよりも、リンゴに新しい命を吹き込むためにどうすれば良いか、お酒の材料としてどんなリンゴが必要なのか、そのような話に多くの時間を費やしたそうです。

 ある日、打ち合わせをしていたワイナリースタッフが農家さんに宣言しました。
「日本一はもちろん、世界一美味しいシードルを目指します」
 まだ、ワイナリーの敷地には何もなく、雑木林を伐採しただけの、荒野のような風景が広がっていた時期の話になります。

 それから5年が経過し、ワイナリーは農家さんたちとともに、一歩ずつ復興へ進んでいます。この間に英国で開催されているインターナショナルシードルチャレンジコンテストという世界的な大会で、2回のブロンズメダルを取得しましたが、世界一に向けたシードルの歴史は厚く、世界の壁は高いようです。
「金メダルじゃなかったのか」
 コンテストの入賞報告をした時、農家さんの第一声は祝意ではなく口惜しさでした。そして、間髪を入れず、もっと美味しいシードルを醸すためにどうするか、意見を交わし始めたのです。

 東北の片田舎、福島県郡山市逢瀬町にある、従業員が数人しかいない「小さなワイナリー」が、世界一を目指している。シードルの本場に乗り込み「fukushima」、「ouse」の名を広げている。世界に広がる「fukushima」の風評被害に、小さなレジスタンスを行っている。
 そんなことを考えながら、ワイナリーに流れる、この土地特有の緑に色づくような、山の精気を含んだ独特の香りを含む風と、景色だけをつまみに、黄金色に輝くCIDERを口にする。
 自分にとっては、世界一美味しいお酒を愉しむ大切な時間となっている。

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