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【創作】俺たちの始まり #シロクマ文芸部

 こちらの企画に参加です。

(以下、本文です)
 始まりは小学二年だったな。一年生から同じクラスだったけど、真面目なだけでクラスで特に目立つことも無い高橋とは一年生では何も絡むことが無かった。正直、クラスのリーダー的存在の俺からしたら「面白味もない取るに足らない男」というのが高橋への評価だった。

 あれから二十五年、お互いに少しオッサンになり町の公式な組織である「若者定住会議」の座長と事務局で同じ部屋にいるというのも変な感じだよ。お前は相変わらず真面目な顔で澄ましているよな。その落ち着きが羨ましいと素直に思えるくらいには、俺も大人になった。
 けど、あの時、転校生をイジメて高橋に叱られてしまった時のように「イジリ癖」はまだ残っているんだぜ。

 会議参加者からの反対意見に対し、毅然として滔々と回答している高橋を少しイジリたくなっていた。意地悪というより「お前なら何とかするんだろう、それを見てみたい」という、良く言えば更に高いところに行くまでの課題というか「試練」みたいな感じで俺の意見を言わせてもらおう。いくぜ高橋、ちゃんと受け止めてくれよな。

「『町おこし』というのは、俺たちのような中核に置かれた者が楽しめなければ他の人に楽しさが広がらないと考えています。先刻の話とも重なるけど、俺たちが正しく妖精を知らなきゃ駄目だと思う。
 だから事務局には本格的に『妖精の勉強』をする機会を作って欲しい。例えばあくまで例えばだけど、この会議の五人で妖精の本場である『英国視察』を検討していただきたい。百聞は一見にしかずだ。
 事務局が『思いつきではなく、本気の提案』というなら、口先だけじゃなく見える形にしてもらいたい。長くなりましたが「本」「人」「現場」での勉強の機会を提供していただくことを事務局に提案し、委員各位には次回までに勉強と対案をお願いしたい。その結果を持ち寄り、次回の会議で議論を深めることにしてはいかがでしょうか」

 高橋と田中はポカーンと呆けた顔を浮かべた。田中君、驚かせて申し訳ない。けど君の先輩なら何とかすると思う。
 若者定住会議の委員はお互いに顔を見合わせた。そうそう、そういう顔が見たかった。町長派も反町長派も関係なく、皆でこれまでには無いことをして一緒に盛り上がりませんか。

 高橋と田中君には申し訳ないが、何となく「まぁ、妖精案も仕方ねぇか」という雰囲気を思いっきりブチ壊して、事務局に刃物を突き付けるような提案だとは思う。

 高橋、小学二年の時、転校生をイジメていた俺たちに正面から言い返してきた時のように、俺に打ち返して欲しい。あれがあり俺たちは親友になれたと思う。だから、今度は町の皆を巻き込んで、もっともっと良い銀山町づくりに繋がる気がする。
「俺は、本気で町おこしをするための会議にしたい。前例とか慣習とか常識を越えたいと願っている。だから事務局の本気度を知りたい」
 俺は高橋に挑発的な視線を送った。全員が息を飲んだ。
「事務局 高橋です。座長から委員皆様の意見を集約して「本」「人」「現地」という提案をいただきました、ありがとうございます。
 この場で「できます」と確約はできませんが、本気度を問われましたので、実現に向けて「やります。やらせていただきます」とお応えさせてください」
 それでこそ高橋だよ、俺は心の中で喝采を送った。
(本文ここまで)

 実は3月の「シロクマ文芸部」は、「銀山町 妖精綺譚」の「スピンオフ縛り」に挑戦していました。
 最後を締めるのは「若旦那 郷田」ということになりました。読者の方に楽しんでいただけたかは解らないですが、書いていて楽しかったです。
 お付き合いいただきありがとうございました。
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