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【創作SS】神様になった元領主

 拙著 元宮ワイナリー黎明奇譚に収録している「神様になったお役人」のリライトです。
(以下 本文です)

 村長の話を聞き終えた領主は、静かだが憤りを隠さぬ口調で返した。
「年貢を五割減らしてくれとは、私を馬鹿にしているのか」
「滅相もありませぬ。お恐れながら、今年の冷夏はあまりに酷く、このままでは、皆が生きていけませぬ」
「天候、疫病、害虫と、その度に減棒していたらキリが無い。悪しき前例は作れぬ」
「何卒、何卒」
村長は畳に額を擦りつけた。
「無理だな。今年の稲は酷すぎる。このままだと来年の種籾にも支障をきたすのではないか」
「そこは他の村から借りてでも」
「無理だな。周辺も似たようなものだ。そこで相談だ。今年は米に代えて材木で納めるのはどうだ。数十年かけて育った木を失うからには、将来に備え別な生業を興さないとならぬ。 この地の川からは良い土がとれるようだ。陶芸職人を招く故、窯を造り農閑期に稼いではどうだ。手先の器用な者を選んでくれぬか」
領主の言葉に、平伏す村長の目からは涙が零れた。
 手討ちを覚悟して足を踏み入れた、領主の館であった。

 二年後の春、領主が都に戻る際には土産と併せ一人の若い女性が献上された。

 その女性が都の生活に馴染めず、逃げ出したのは同じ年の秋のこと。

 翌春、元領主は村を訪れ、領主宅に村長を呼び出した。
「こんな形で、再訪するとは思わなかった。さて、朝廷から脱走した者を放免する訳にはいかぬ。斡旋した私の責めとなる」
「あの女は捕らえております。私も含め、いかような処罰も覚悟しております」
「では早速、裁くとしようか」
 元領主は、調査・処分に係る一切の権限を与えられていた。
 庭に出された女性を前に、元領主は顔をしかめた。
「村長、私を謀る気か。この女は別人ではないか」
そんな馬鹿な、と、驚きのあまり声が出ない村長には目もくれず、元領主は続けた。
「逃げた女が入水し、自死した身代わりだと。この女に罪は無い、放免せよ。
さて、死者を処罰するわけにも行かぬ。なお、村長は半年間の蟄居とする。
これにてお開き。都から300余里、全くの無駄足だったわ」
 激しい口調とは裏腹に、元領主は晴れやかな笑顔を浮かべていた。
 元領主は庭に下り、女性の縄を解くと、村長に耳打ちした。
(儂は都に戻る故、蟄居しているか確認できんな。達者で暮らせ)

  都に戻った元領主が、秋を楽しんでいると、村長から蟄居を終えたことを知らせる文と、いくつかの陶器が届いた。また、歌が一首添えられていた。 (この詩を詠むとは、都に置くべきだったか。いや手放し、村に生かしたからこそ生まれた詩だな)
 満足そうな笑みを浮かべ、詩を「読み人知らず」として知人に贈った。

 元領主が身罷れたことを知った村人は、村の鎮守として元領主を祀る社を建立した。

 千二百余年昔の福島にあった話。  
 鎮守は今も村を護り続けている。
 詩は万葉集に残されている

 あさかやま 影さへ見ゆる山の井の 浅き心を我あが思もはなくに
(本文ここまで)

 さて、勘の良い方はお気づきかと思います。
「ひなた短編文学賞」にエントリーする小品です。

 実は公募やコンテストには、あまり食指が動かないのです。
 福島太郎として活動するにあたり、
「好きなことを 好きなときに 好きなように書く」
を優先しております。

 締切やテーマを意識し「書かなくては」という重圧を感じたくないのです。昔、公募に嵌った結果、「書きたくない・書くのが嫌」になったのがトラウマなのです。

 なお、最近は順位や賞をつけない「毎週ショートショートnote」や「シロクマ文芸部」を楽しませていただいてます。

 ただ「ひなた短編文学賞」さんは、福島県に進出した企業さんが主催なので盛り上げたく、テーマ「生き変える」が手持ち作品と相性が良いと感じ、エントリーしました。

 自分の作品を「生き変える」ことができて楽しゅうございました。なお、元宮ワイナリーはこちらにあります。

#何を書いても最後は宣伝
 

 

サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。