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【創作SS】旅の終わり #シロクマ文芸部

 最後の日は唐突にやってきた。近いうちに来るだろうと覚悟はしていたけど、まさか昨日の今日になるとは思わなかった。
 声を振り絞るように、前を飛ぶ雀君に話しかけた。
「雀君、僕の旅はここまでらしい。藁が腐りかけてたけど、昨日の水と火で一気に腐食が進んだようだ。僕は土に還る。今までありがとう。
 君と旅が出来て楽しかった。最後に子どもを助けられたなんて、案山子冥利に尽きるよ。
 ガンダーラに辿り着けず、笑えなかったけど、良い藁生だったと思う」
 雀君に想いを伝えることができて良かった、そう感じた後、目の前が真っ暗になり、何も見えず何も聞こえなくなった。

 どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
 僕はふと僕であることを意識できた。空から大地を見下ろしていた。
 収穫を終えた麦畑に雀君がいた。
「雀くーん」
声をかけたけど何の音も響かず、雀君も気づいてくれなかった。雀君は大地に身体を横たえると、瞼をゆっくりと閉じたように見えた。
「雀君、こんなとこで眠ったらダメだよ。ちゃんとお布団で寝ないと」
声をかけたけど、あたりには何の音も響かず、雀君はピクリとも動かなかった。
(もしかしたら、雀君は)
嫌な考えが胸をよぎった。
(せっかく会えたのに、もうお別れだなんて)

「久しぶりなのに、シケた顔するなよ。けどまぁ、そんな顔ができるだけ成長したってことかな」
姿は見えないけど、近くで懐かしい声が聞こえた。胸に熱いものが込み上げてきた。
「雀君、また、一緒に旅をしよう」
雀君が首を横に振るのを感じた。
「君が笑えるようになったから旅は終わりさ。あの日が僕たちの旅の最後の日さ」
(雀君は王様になれたのかい?)
聞きたかったけど、言葉を飲み込んだ。
僕たちの旅は終わった。
後は未来を信じて見守ればいい。
「案山子君、いい笑顔してるぜ」
「雀君もね」
地上では、顔に火傷の痕がある女の人と小さな女の子が、にっこりにっこり笑いあっていました。

 笑顔に溢れる人間と、鳥の王様の家族たちは末永く幸せに暮らしました。
(本文ここまで)
 シロクマ文芸部に参加です。
#シロクマ文芸部

 全く事前説明が無いので、
「いったい何を書いているの」と思った方もいらっしゃるかと思います。不親切ですいません。
 こちらの「笑えない藁の案山子」のアフターサービスとして書きました。

 絵本ではなく、文字だけのヴァージョンはこちらの「ショートショートパラダイス」の冒頭に収録しています。

 全くのノープランで、何も考えずに「最後の日」と入力したら、こんな展開になってしまいました。
 なお、「笑えない藁の案山子」の本文はnoteに投稿したものも残してありますので、↑の本を入手しなくてもお読みいただけます。

 ただ、この作品は「絵本(紙書籍版)」がイラストの力で魅力が高まっていますので、できれば「絵本版」をお読みいただきたいです。

 余談ですが、noteに投稿する際
#地には平和を人には愛を
というハッシュタグをつけることが多いです。
この投稿で777回目らしいです。

 いつか、こんなタグを使う必要がない日が来る夢を叶えたです。。

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