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【創作SS】ガラスの手 #シロクマ文芸部

 ガラスの手みたいだ、透き通るような美しさが。

 彼はそう言って私の手を口元に引き寄せた。彼の手と唇の温かさを感じながら、心が冷えていくのを感じていた。
 ガラスという言葉から、冷たさを思い浮かべてしまったからかしら。彼を求める気持ちが、遠ざかっていく。

 左手を彼から引き離して立ち上がる。
「帰るわ」
週末は一緒に食事をして、彼の部屋で過ごす。ここ数ケ月、ルーティーンのように繰り返してきたけれど、終わりにしよう。
 今日、何も無かった。

 あと数時間で、30回目の誕生日を迎える。20代最後の夜と30代最初の朝を貴男と過ごすために、左手に小さな灯(あかし)を期待していたのは間違いだったのかしら。
 それとも、貴男を選んだことが間違いだったかしら。

 呆ける彼に背を向ける。
 引き止めようとしないのは、驚いているからなのか、大人の落ち着きなのか、それとも、私に魅力が無いからなのかしら。
 まぁ、どうでもいい。
 
 外に出てドアに鍵を掛け、ガラスの靴の代わりに鍵を郵便受けに投げ入れる。王子様は、私を探しに来てくれるのかしら。それとも「冷たい女」と振るのかしら。
 
 うん、現代のシンデレラには、カボチャの馬車も、ガラスの靴も、王子様も要らない。童話のように
『王子様と幸せに暮らしました』
にならなくても、私には私の未来が、幸せがある。
 
 空高く、銀色の月が輝いていた。
 月を捕まえるように左手を掲げた。ヒンヤリとした風が吹き抜ける。
 さっきからスマホが震えているけど、手にする気にはならない。
 さぁ明日からは、どんな物語を綴ろうかしら。

(本文ここまで)
 小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」に参加です。
#シロクマ文芸部
 https://note.com/komaki_kousuke/n/ne2cc19745b50

#何を書いても最後は宣伝
 本作の男性は、書いていて「オイオイ」という感じでしたのでしたが、こちらの男性には、期待しても良いかもです。

 
 

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