【エッセイ】根っこ

(2001年頃に書いた、エッセイ風のお話です)

 高校生時代は、とにかく都会に憬れていた。
 貧しく、いさかいが絶えない家庭への不満、進学する同級生たちへの嫉妬、「都会で自分の可能性を試したい」という野心のようなものがあった。
 苦労ばかりの母には申し訳ないという気持ちもありながら
「いずれ戻ることもできるから」
と半分騙すような形で、高卒での就職先に横浜を選んだ。

 東北の山の中で育った僕にとって、毎日のように海や船を見ることさえ驚きだった。まして、これまではテレビや雑誌でしか見ることのなかった中華街や山下公園、伊勢崎町という景色の中に自分が存在していることは不思議な感動だった。
 給料は安いが楽しかった。進学を希望しながらも家の事情で就職したという、同じような境遇の同期と交流することで、自分一人が不幸を背負っているようなかたくな心を解き放つことができた。

 上司に叱られたり、船の乗組員に罵倒されたり、たまには良い仕事したりする日々を送りながら、一つの疑問を抱いた。
「どうして俺はここにいるのだろう」
 憬れていた都会の生活は日常となり輝きを失い、名もない雑木林、広がる田園の風景を懐かしく、魅力あるものと思うことが増えていた。

 自分の非力さを認めることで、ちっぽけな野心は霧散した。何らかの可能性を見つけるための努力をしようとしても、横浜には自分に力を与えてくれる根っこがないことに気がついた。
 根となり、力を与えてくれるものは、自分を愛してくれる家族、そして地元に住む人たちだ。育くんでくれたふるさとこそが、自分に力を与えてくれる。自分の力を地元のために使いたい、との想いが強くなっていった。

 楽しいだけの日々を卒業し、夜間大学へ進学した。高校時代に抱いていた進学への夢と、自分の根っこである故郷に戻りたいという新しい夢。
 二つの夢をかなえるために動き出した。
 卒業後の進路への不安
「お前は仕事と大学とどっちが大事なのだ」
と、口に出す一部の上司のイジメ。
 バブル景気で享楽的な時代の中で、金のない生活など、何度か挫けそうになりながらも、同僚たちの協力と励ましの中で卒業し、幸運にも地元の市役所の採用試験に合格した。
 一度は自ら断ち切った根っこに再び繋がり、地元のために、力を尽くせる喜びを得ることができた。
 名もない山に囲まれ幸福な日々の中、横浜のことを想わない日はない。自分自身を見つけ、生きる夢を見つけたもう一つの故郷。そして、そこで根を張り努力している同期たち。

 いつか語り合おう、お互いの故郷のことを、自分に咲かせた花のことを。

(本文ここまで)

 古い「独り言」にお付き合いをいただき、ありがとうございました。
 本業でも福島太郎としても「花も咲かず実もならず」ではありますが、まだ自分を諦めず、根を張り成長することを目指していきたいと考えております。引き続き交流していただきますよう、お願いします。

 さて、福島太郎は6月18日(日)開催の「文学フリマ岩手8」に出店いたします。カタログがこちらです。

 誰か遊びに来ていただけますようにと、毎日祈るような気持ちです。
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Amazonでは「予約受付中」ですが、別ルートで発注した本が届きました。
昨夜、こんな記事を投稿して、娘たちの赤ちゃんの頃を思い出していただけに、胸に刺さりました。

『自分の子どもたちに、この本を読んであげたかった』
そんなことを考えたら、不覚にも涙を零してしまいました。
 この本を読んであげることも、ちゃんとした子育てもできなかった駄目な父ではありますが、娘たちの根っこに、少しは栄養になっていると信じたいところです。

 もちろん、これからも父として、娘たちの栄養になることも諦めないです。

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