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【創作SS】ありがとうなら #シロクマ文芸部

「ありがとうなら、蜂は九とかでしょうか。なお、出だしは『ありがとう』で固定するものとします」
教授の独り言のような問いかけに、ゼミ生たちは
(また始まった)
という気持ちをおくびにも出さないように気を引き締める。下手に反応したら回答を求められる。
 4月からスタートしたゼミも12月となり、一年生たちにも教授のスタイルはバレバレとなっていた。
「ゼミ長なら、何としますか」
ここで「何の話ですか」とか「どういう意味ですか」と確認すると、教授は失意の表情を浮かべるので避ける必要がある。現在ある情報だけで、「自分なりの解」を見つけて応えるのが、このゼミのやり方である。ゼミ長は首を傾げながら応えた。
「蟻が塔なら、蝶は星というのはいかがでしょうか」
教授は満足そうに頷いた。
「なるほど。私は『ありがとう』を『蟻が十』としましたが『蟻が塔』とすることで、タロットカードの世界観、そして『星』のカードに導いたということですね。素晴らしいです、私には無い発想です。惜しむらくは、「蝶」の必然性が足りないことでしょうか。
 まぁ、私の「蜂」にも同じことが言えますので、我々は更に思考を深める必要があるのでしょう」
  教授は残念そうに頷き、視線を窓の外に向けた。外では冬服に身を包んだ学生たちが背中を丸くして歩いていた。
「教授」
田中が挙手をしながら、呼びかけた。教授は振り向きながら目線で発言を促した。
「蜂も蝶も、必然性はあると思います。アリから繋がる素晴らしい解だと思います」
教授は目を細め、ゼミ長は目を丸くした。
「説明していただけますか」
田中は静かに立ち上がり発言した。
「教授もゼミ長も、一義的には昆虫の蟻のお話をされたと思いますが、蟻はアリに通じ、偉大なボクサーである「モハメド・アリさん」にも繋がります。モハメド・アリさんと言えば「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と称されました。
 なので、アリを受けて蝶や蜂を出すのはアリだと考えました」
 田中の意見を聞いた数人から拍手が起きた。教授も手を叩き、拍手が止むのを待ち感謝の言葉を伝えた。
「田中君、私とゼミ長の二人を救う、素晴らしい補足をありがとう」

 教立大学は今日も平和。
(本文ここまで)
 12月に入り、意図的に「創作SS」を休んでいましたが、久しぶりに「教立大学」を復活させました。オチが弱いのはお赦しください。
 この教授やゼミ生の日常は、マガジンかコチラの本でお楽しみください。
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