未来の建設業を考える:「建設イノベーション」
自動車産業におけるイノベーション
自動車産業の歴史を振り返ると、建設も含めた製造業のあるべき姿が見て取れる。
20世紀初頭、ヘンリーフォードはT型フォード一種類を大量生産することで販売額を大きく引き下げ、自動車を一般大衆にまで普及させた。一方、GMは、多様なモデルを顧客に提供し、更に頻繁なモデルチェンジにより、売上高を世界一まで伸ばすことができた。そして、トヨタは「カイゼン活動」により、他社と比較して圧倒的な「現場力」を手に入れることに成功し、工場の生産効率を高めるとともに、高品質と低コストの両方を実現し世界一となることができた。
経営者がすべての課題を解決できるわけではない。現場が主体を持って解決できる能力、「現場力」は重要で、この現場力を設計にフィードバックし、トヨタの設計力が格段に向上したことが大きい。
これらすべての自動車会社の成功に共通しているのは、それまでの製造業とは異なるイノベーションを持ち込んだことだ。
建設業のイノベーション?
建設業は、製造業と比較すると、どうだろうか。
東日本大震災の対応を始め、建設活動において、日本の建設業は、現場の自主的な判断で的確に対応しており、その意味で、「現場力」は圧倒的に優れている。
それゆえ、その「現場力」をいかに「設計力」へとつなげ、建設イノベーションにつなげることができるかが、これからの建設業に求められていると思う。
設計と現場を繋げる取り組みがいろいろとなされているが、完全でない設計情報を現場で修正し、あるいは、現場で設計情報を確定させる今の生産プロセスには、限界が来ているのではなかろうか。もっともっとダイナミックに設計と現場で情報を共有できるような方法をITツールとともに、開発する必要があるのではないだろうか。
米セールスフォースは
米セールスフォースは、創業者がハワイで休暇中に、アマゾンを見て勤め先のソフトを同じように提供でしないか考え、それを実行することで、クラウド型ビジネスのきっかけを作ったと言われている。異なる既存の概念の組み合わせで、いかようにもイノベーションは想像できる。
BIM(ビルディングインフォメーションモデル)はその可能性を秘めているが、今のようなITツールとしての取り組みに留まらず、建築生産プロセスそのものを変革することにつながらないと建設イノベーションにつながらない。
「現場力」と「設計力」の統合や、発注者、設計者、施工者、プロジェクトマネジャーの協働により、事前に設計情報を確定し、より生産効率の高い工事現場を実現してこそ、始めて建設イノベーションが実現されるのではないだろうか。
イノベーションが生まれる4つの要因
米ハーバード大のクレイトン・クリステンセンは、著書の中で、イノベーションが生まれる4つの要因を指摘している。①なぜ、どうやって、といった疑問を持つこと、②周囲、外界を注意深く観察すること、③分野や文化の異なる人々と交流すること、④発見やアイデアを実際に試してみること。建設業におけるスティーブ・ジョブスが生まれるかどうかはわからないが、強い現場力をベースに、建設イノベーションが進むことで、より魅力的な建設産業となることが、今こそ求められているのではないだろうか。