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未来の建設業を考える:建設論評「パラダイムシフト」(2016年12月20日)

自動運転:自動車業界 VS IT業界

 自動運転技術、シリコンバレーではグーグルマークの自動運転車があちらこちらを走り回り、すでに公道走行が200万マイル(約320万キロ)を突破したそうだ。
 そもそも自動運転への自動車業界とグーグルなどIT業界が目指す社会は、大きく異なる。
 自動車業界はあくまで大量生産のクルマを売るビジネスモデルの延長として、安全なクルマとするための自動運転技術の開発であるのに対し、IT業界はクルマを大量生産することなど考えていない。IT業界ではクルマというハードウエアをコンピューターのソフトウエアと組み合わせることで、より安全で快適な移動手段に置き換えるとともに、道路インフラ投資、交通事故、渋滞や環境問題を生み出すクルマ社会を変えようというものだ。
 95%が車庫で眠っているというクルマの共同利用を促し、その保管にかかるコスト、道路整備にかかるコスト、移動先でのパーキングなど、社会コストを減らすことを目指しているのだ。
 IT 業界は自動運転技術をオープン化し、乗車している利用者にソフトや情報を売却することで儲けるビジネスモデルだ。
 さらに、このオープン化の動きは先進国だけでなく、これからクルマ需要が生まれる発展途上国でも、有効に働く可能性が高い。なぜなら、クルマ社会はインフラ投資が必要であるが、オープン化は大きな投資をすることなく利便性を獲得できるからだ。携帯電話が、アフリカ諸国の部族まで普及した形と同じだ。

パラダイムシフト

 この意味で、自動運転技術は自動車産業の構造改革にまでつながる大きなパラダイムシフトが起こる可能性を秘めている。

設計者の役割

 建設業ではどうであろうか?
 建設業は専門の設計者がいて、熟練の技術者がいて、ゼネコンがいるという世界であったが、例えばBIMの発達と3Dプリンターの組合せ、新たな建設素材が生まれることで、住宅であれば今でもパーツで組み立てられるようなソフトが出ているが、それがそのまま図面として、建築材料として簡単に組み立てられるような時代が来るかもしれない。設計者もいらなくなるかもしれない。ゼネコンだけいればできるような世界が来るかもしれない。建築設計というプロフェッショナルな世界がAIに置き換えられる可能性もあるということだ。

建設のパラダイムシフト

 しかし設計者は単なる設計図を描く人ではない。発注者の要望を聞き、時には発注者を諌め、工事現場でも必要な指示を行い、設計、施工、そして建築生産における一貫したマネジメントを発揮し、発注者の要望する品質を確保できる建築プロデューサーとしての役割と責任を持っているはずだ。
 AIやICTの発達は、最初のソサエティー1.0と呼ばれる狩猟社会が数百万年、次の農耕社会は数万年、工業社会は数百年、インダストリー4.0と呼ばれる情報社会は数十年と、ものすごいスピードで成長している。成長は変化をもたらす。いまこそ、設計と言う行為が、より人類にとって必要な進化を遂げる時期にきているのかもしれない。建設のパラダイムシフトがより社会を構築するように。

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