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未来の建設業を考える:「利」より「義」へ

社会の基本は

 社会の基本は、何であろうか?個人と個人のつながりによって成り立つものであり、独立しては存在し得ない。

日本資本主義の父と呼ばれる渋澤栄一

 日本資本主義の父と呼ばれる渋澤栄一は、「利を以って利とせず、義を以って利とす」「私利私益の観念を超越して、国家社会に尽す誠意を以って獲得せし利益は、これ真正無垢の利益というを得べし」という言葉を残している。

建設産業における「義」とは、

 昨今の耐震偽装問題に代表されるように、今の建設産業に失われたものは、渋澤が指摘した「義」ではないか。
 建設産業における「義」とは、専門家としての高い知識に基づき、発注者のために真摯に、社会性を踏まえて、発注者要求を実現することにある。
 この「義」がなくなってしまったのが、今回の一連の偽装問題の背景にあると思う。この解決には、モノづくりの基本として何が最も重要であるのか、再度認識することが必要不可欠である。
 現在の議論を聞いていると、規制を強化することで品質を確保すべきとの意見が多い。

規制の強化は、全体のコストを増加

 しかし、規制の強化は、全体のコストを増加させることにならないか。
 設計者も確認審査機関も、工事監理者も、設計図という設計情報を作り、情報を信頼し、設計図と生産物の整合性という情報をコントロールするのみで、実際にモノをつくっているわけではない。
 従来は、設計情報の不具合があったとしても、モノづくりの現場で調整し、品質を確保する活動がなされていた。それがTQCへと広がりをもち、品質を確保することができた。

プロセス管理という名の書類管理

 しかし現在は、建設プロジェクトにおいて、プロセス管理という名の書類管理が主体となり、書類のために現場も見ない監督がいるというような笑えない話を聞く。管理業務が多くなり、本当にモノを作る人の割合が少なくなってしまっているのが問題であろう。チェック機能を増大させ、建物の品質を確保しようとしても、上からの情報の検証であり、品質の向上にならない。

ボトムアップで実現する品質担保

 ボトムアップする品質担保があって始めて、トータルの品質が向上する。
 そのためには、建設プロジェクトの品質の向上と効率化のために、モノづくりの現場に、きちんと建設費がまわることである。
 現状は、単に、設計情報をもてあそんでいるだけで、設計情報そのものの確定度合いを高めることで、生産現場の悩みを解決していこうという、気概が感じられない。
 建物の品質を確保するためには、プレイヤーやインスペクターを増やすことも解決のひとつであることは確かだが、すでに専門分化は多いに進んでいる。
 まずは、専門分化されたプレイヤーを統合するプロジェクトマネジャーを明確化し、少なくとも、情報を発信する側の責任や情報の管理を一元化する。一方で、本当に仕事をする人達、モノ作りの現場へ、建設費が適性に流れる仕組みを築きあげることが必要なのではなかろうか。

建設産業が「利」より「義」を大切にする産業

 モノづくりの現場において、「義」を持った人をどれだけ確保できるかが産業構造の改革に必要ではないか。建設産業が「利」より「義」を大切にする産業として、早期に信頼回復することに期待したい。

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