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なぜロバと旅をするのか

なぜロバと旅をするようになったのか。

きっかけを与えてくれたのは、モロッコの遊牧民だった。山に住む彼らがロバを何頭も従えて行き来している姿を眺めるうちに、ロバが私の荷物や食料を運んでくれたら、どこまでも行けるだろうと、そう思ったのである。

2018年にモロッコで初めてロバを買い、一緒に歩いた。22年にはイランとトルコ、再びモロッコでロバと旅をした。ロバに荷物をのせ、私はその傍らを歩く。野宿したり、人の家に泊まったりしながら、歩いた距離は計5000キロに上る。

ロバは馬よりも小型で扱いやすく、性格は穏やか。体は頑丈で、粗食に耐える。重い荷物を背負わされても文句を言わず、黙々と歩く。

ロバの魅力は頼れる荷物持ちとしてだけでなく、ユニークな振る舞いにもある。食って、寝て、セックスする。その生き方は実にシンプルで分かりやすい。いつも草を食べているかと思えば、メスを見たら我を忘れて突進したりする。

こういう旅をしていると何かと人の目を引き、時には辛い目にも遭う。過去には強盗に襲われたり、ピストルで脅されたりしたこともあった。しかし、そんな時でもロバは我関せずといった顔で、のんきに草を食べている。ロバを見ていると人間とのいざこざなどどうでもいいことのように思え、お前には敵わないよ、と思う。

草を食うのに夢中でなかなか歩いてくれなかったり、何を思ったのか、真夜中にものすごい音量で鳴き始めて目を覚まされたりするなんてことはしょっちゅうだ。だが私にはそれすらも愉快なことに思えた。
ロバはよく働くだけでなく、一緒にいて楽しい相棒だった。

日本でもロバと歩いてみようと思ったのは、昨年冬、2回目となるモロッコをロバと旅している時だった。日本でも同じことができるだろうかと、ふと思った。海外ではビザの問題があるから旅ができる期間に限りがある。しかし、日本なら時間を気にすることもない。もっと多くの時間をロバと過ごしたら、どんな世界が見えてくるのだろう。会社を辞めて旅に飛び出してきた私は、帰国したらまた会社員に戻るつもりだったのに、頭の中は次のロバとの旅のことでいっぱいになった。

道行く人々はどんな反応をするだろうか? 道路交通法では、牛馬は軽車両扱いとなっているから、ロバと歩くことは法律的には問題ない。でも、いい年をした大人がそんなことをしていたら気味悪がられるだろうか。それとも、案外、応援されるだろうか。

ロバと旅することで、今の日本の姿が見えてくるかもしれない。

もちろん心配なことはある。日本では、ロバが道端で糞をしたらいちいち拾わなくてはならないだろう。ロバ連れだとホテルに泊まれないから毎日野宿だ。台風の日だってある。行く先々で好奇の目で見られ、「ロバがかわいそう」とSNSで炎上することだってあるかもしれない。

でも、私はやる。たとえそれが絶望の旅路になるとしても。私は、ロバと歩きながら、良い景色も悪い景色もどちらも見てみたい。

そういうわけで、今回の旅は7月21日から始まる。

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日本国内を驢馬(ロバ)と歩いて旅しています。Twitterには書ききれなかった、あるいは書けなかった道中のあれこれを月に最低3本、綴ります…

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