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第7話 ボクを恐怖に陥れたもの 油断してた…

また、朝が来たよ、ここに来て2日目の朝だ。

11月だから少しずつ寒くなってきてるのがわかる。

ボクの原産地はドイツだからこのくらいの寒さは何でもない。

何しろダブルコートの毛皮をまとってるからね。

とはいえ。

お外で暮らしてるコのことを考えると、それは大したことはではないんだけど・・・。


今日は、娘さんだけ出かけて、お母さんはおうちにいるよ。

娘さんのお出かけの時は、必ずお母さんも一緒に出掛ける。

またすぐ戻って来ることもあるし、そのまま二人とも夜まで戻ってこないこともある。

娘さんが帰って来るときは、必ずお母さんが一緒だなぁ。


娘さんが一人で出かけることは今までに一度もなかったかも。

きっとお母さんと一緒でないとお外に出られないんだろうな。

人間だからボクよりずっと大きいけど、まだ子どもなのかも知れない。


それに毎日同じ服を着て出かけるんだ。

ボクみたいにお洋服はあまり持っていないのかも。

お店で会った時も2回とも同じ服だったし、昨日も今日も同じ服で出かけて行った。

お母さんは、毎日違う服を着てるのだからちょっと買ってあげればいいのに・・・。

案外かわいそうなコなのかも。


二人の他に、ここに帰ってってくる人はいない。

二人だけみたいだ。

他に怖い生き物もいない。


ボクはケージの中で4本の足を折って床にアゴからお腹まで全部くっつけてる。

ヒマだ!

さっきまで、お母さんの後をついて歩いてたら、ここに入れられたんだ。

最初はワンワン吠えて、出してもらいたいアピールしたけど、一向に効効き目がないからあきらめたところ。

ノド乾いたし。

忙しそうなお母さんの姿を、目だけで追いながらぼんやりしていると、お母さんと目が合ってしまった。

ボクは叱られたばかりだから、気まずくて床につけたアゴをさらに床に押し付けて小さくなろうとした。

・・・でもこれ以上はムリだったワ。


そうしたら、お母さんはボクの鼻先に何かを差し出した。

細長い棒のようなもの。

ボクは、危険を感じ、サッと立ち上がってその棒の匂いを嗅いでみる。

ボクの鼻は感度がいいんだ!

甘い匂いがしてる。

危険なものではないみたい。

これは何だろう?ご飯はもう、もらったし。

ボクはそれを口にくわえてお母さんを上目遣いで見てみる。

お母さんの口角がちょっと上がった。

あげるよ。もう怒ってないよ、と言ってるみたい。


食べていいのね?

昨日はお母さんの大切なものをかじったから、怒られちゃったけど、これはお母さんがくれたんだからいいんだよね。

・・ウソつかないでよ。

ボクは片方の前足で、その棒を転がしてみた。

するとケージの床の溝にすっぽり入ってしまって、うまく取れないんだ。

少しの間、それを取って口に入れるためにボクは格闘した。


そしてとうとう、両方の前足で棒の片方の端っこを抑えて、もう片方の端っこを口に入れることができたんだ。


それを見届けたお母さんはその場を離れた。

ボクはホッとして、細い棒を噛んでみた。


あれ?噛んでも噛んでも噛みきれないぞ。

そのうちにふとボクはあることに気づいた。

「ミルク味だ!」

お店でもらったミルクの味。

そしてそれは何だか懐かしい臭いがした。

ボクはこの噛み切れない、何だかわからないものがちょっと気に入った。


今日は噛んでも怒らないよね、お母さんがくれたんだもん。

ボクは何度も頭の中で、繰り返してみる。

ボクはこの不思議なものを夢中になって噛み続けた。


お母さんが奥の部屋から、ワニのような形をした長くて大きなものをもってこっちにやってくる。

ここから、ボクの幸せな時間は、容赦なく恐怖の世界へと一転することになるのだったのだ。




今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。

ボクを恐怖のどん底に追いやったのは何でしょうか。

この次もまたお会いできればうれしいです。







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