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私が就職前に駆け込んだ、平日(のみ)開館の博物館たち~企業博物館の紹介~

この日本には、大人には行きづらい博物館というものがあります。

なにも、キッザニアで年齢詐称するのは難しいだとか、アンパンマンミュージアムソロ攻略は周囲の目線が刺さるとかそういう話ではありません。

企業のオフィスに併設されていたり、工場の稼働に合わせているために、平日にしか訪問できない「企業博物館」のことです。企業博物館たちはその企業の事業に特化した博物館であり、そこでしか学べない・体験できないことも多くあります。

残り少ない人生のモラトリアムをのんびり消費していた私は、これにふと気づき、残り一か月をバイトと積みゲーと博物館めぐりに費やしたのでした。

このnoteはその一か月の記録であるとともに、大学生のみなさんに今しか行けない博物館、そして何よりあまり知られていない「企業博物館」というジャンルに触れてもらいと思い、書いています。

私が行った企業博物館

NTT技術史料館

https://hct.lab.gvm-jp.groupis-ex.ntt/search/

NTT技術史料館は、日本の電気通信黎明期から現代までを膨大な史料と詳細な展示から知ることが出来る博物館です。体験展示もありますから子どもも楽しめます。

HPでは「日本電信電話公社発足以降の半世紀を中心に」と書いていますが、幕末から逓信省までの展示も力強く、その「中心」になるとのっぽな自動電話交換機の筐体までずらりと並べる力強さが驚異的です。

私の訪問時はNTTOBの方のガイドツアーをお願いしましたが、これはぜひ予約してください。説明が詳しい以外にも、体験展示を受けやすかったりします。ちなみに駅からはしっかり歩きますし、館内も広大なので、歩きやすい恰好で向かうのが良いでしょう。

KDDIミュージアム

https://www.kddi.com/museum/exhibition/#Z2

今になってはNTTもKDDIも携帯電話事業に参画していますが、かつてはNTT(旧電電公社)とKDDI(旧国際電信電話)によって通信事業が区分けされ、電電公社が国内通信、国際電信が国際通信を担っていました。

国際通信の歴史からKDDIの事業までを紹介する博物館がKDDIミュージアムであり、沢山の史料と幾ばくかの体験展示がありますが、予約時に応募するコースによってできる体験が大きく違うことに注意です。

私が体験した「ツアーB 国際通信の歴史解説プラン」は幕末の海底ケーブルから戦後の衛星通信までを120分かけて濃密に学ぶツアーだったので、歴史に興味がある方はこちらがお勧め。「ツアーA ベーシックプラン」などでは、各エリアをみっちりとは見なかったり、体験展示が多めらしいので、広く知りたい人や連れによって選ぶと良いでしょう。

国立印刷局東京工場

http://www.kanko.city.kita.tokyo.jp/spot/462-2/

日本のお金はどこで作っているのでしょうか。答えとしてまず思い浮かぶのは大阪の造幣局でしょう。しかしみんなが好きなお金といえばお札だというのに、印刷局を思い浮かべる人は少ないはず。

ここ、印刷局の東京工場では日本銀行券・諸証券等の製造から、官報、法令全書、その他の刊行物等印刷物など公的な印刷物を広く取り扱っています。

折しも私が訪ねたのは新紙幣発行数か月前であり、窓ガラス越しに眼下で「栄一」が印刷されていく光景を見ることができました。就職が決まっていたその時、自身の生涯年収以上の紙束が台車に乗せられていくのは、何かわびしいところがありました。

お札と切手の博物館

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Museum-gaikan.jpg

上記の東京工場からそう遠くない位置にあるこちらの博物館でも、国立印刷局が手掛けているお札と切手について学ぶことができます。

一階では、「偽造防止技術の歴史」と題して、明治以降から今次の新日本銀行券までの印刷・製紙技術の発展と伝統の継承を紹介しており、二階では内外の珍しいお札・切手の展示がされています。

国内で言えば江戸時代の藩札や明治の太政官札、恐慌時代の裏白札。国外で言えば破格の額面でおなじみ100兆ジンバブエドル札、一次大戦後ドイツのパピエルマルクが見られるのは歴史好きにはたまらないのではないでしょうか。

造幣さいたま博物館

https://www.mint.go.jp/media/2018/02/orgnization_saitama_branch.jpg

造幣局は日本全国に大阪・さいたま・広島の三か所に工場を構えていますが、ここさいたまでは主にプルーフ硬貨と記念硬貨、勲章の製造を行っています。

プルーフ硬貨は、鏡面加工が施されているなど、コレクションを主目的としたもの。記念硬貨は読んで字のごとくですが、新技術のテストベッドとなることもあり、新500円のバイカラー・クラッドは2008年の地方自治法施行60周年記念貨幣で使用されています。

平日のみ開放している工場見学通路ではこれら硬貨の他、勲章の製造工程を見学することができ、博物館では昔の貨幣、過去の記念硬貨・ミントセット、勲章の他にも、工芸技術の維持・向上のために製造される工芸品や、技術が活かされた五輪メダルの展示があります。

東証Arrows(東京証券取引所)

https://www.jpx.co.jp/learning/tour/arrows/02.html

「日本のウォール街」とも呼び習わされる証券街兜町の中心に位置する東京証券取引所も、実は中に入ることができます。経済ニュースでおなじみの「株価がぐるぐる回るところ」こと「マーケットセンター」も目の前で見学可能。

見学エリア内には、「証券史料ホール」と呼ばれる東証と日本の株式取引の歴史を解説する展示ブースもあり、戦前の株式や債券など他所ではなかなかお目にかかれないものも閲覧することができるでしょう。特に金禄公債や戦争国債などは教科書で見かけたことがあるはず。

また予約をせずに訪れることも可能ですが、事前予約をすることでガイド付きの見学や講義、体験学習付の見学が出来ます。予約はホームページで簡単にできますので、気負わずに行ってみましょう。

印刷博物館

https://www.printing-museum.org/

TOPPA!!TOPPAN!!で最近お馴染み、印刷業界の二大巨頭の片方こと、凸版印刷の本社ビルの一階・地階に開設されている印刷博物館では、古代から現代に至るまでのコミュニケーション技術「印刷」の発展を紹介しています。

展示される史料は貴重なものも多く、高度な専門知識がサラッと隅に書かれているなど、博物館展示を事業としているトッパンが、恐らくモデルルームとして威信をかけているのだろうことが伝わってきます。

予約をすることで金属活字を拾って活版印刷をする体験もできるので、私は馴染みの人と印刷機をガシャコンとしてきました。中々楽しいので、お勧めです。

帝国データバンク史料館

https://www.tdb-muse.jp/about/

企業と企業が取引をするとき、自分で相手の企業がどの程度信用できるのか、調べるのはなかなか難しいものです。企業信用調査会社はそれを代行する会社であり、本邦においても1世紀近い歴史があります。

同館は西欧における企業信用調査の萌芽から日本における産業革命に伴う企業信用調査の根付き、そして帝国データバンク社史について、貴重な文献を展示して案内してくれる博物館です。

私の訪問時は『情報部創設60年企画 倒産60年史』が開催中。記者日誌の生々しい描写から、山一証券を始めとした企業の倒産時に何が起こるのかが伝わってきます。

紅ミュージアム

https://www.isehanhonten.co.jp/museum/permanent/

文政8年、1825年に江戸の紅屋として日本橋に開業した伊勢半が、紅と化粧品の歴史を紹介するために開室したミュージアムです。

江戸時代の紅から戦後のキスミー特殊口紅まで総合化粧品メーカーとして発展してきた同社らしく、江戸時代の紅の製造から戦後の化粧品に至るまで、実際の化粧用具や古文書など多彩な資料を揃えているのが流石。化粧品の「パッケージ」がだんだん現代化していく展示はなかなか圧巻です。

女性の場合は紅の体験などもできるので、是非お試しあれ。

容器文化ミュージアム

https://package-museum.jp/exhibition/

「つつむ」企業としてパッケージ業界を先導する東洋製罐グループホールディングスのオフィスロビーに併設された本館は、容器の歴史と現代のパッケージと東洋製罐Gの事業を紹介しています。

HPを見る限りでは時たま企画展を開催しているようですが、私の訪問時は常設展のみでした。容器の歴史のブースについては複製資料などの展示も多く見ごたえがありますが、現代のパッケージとグループ事業の解説ブースは子供向けの展示の色が強いという印象です。

入り口にある100年以上前のインバーティッドボディメーカー、つまるところ自動製缶機の展示はなかなか味があるので、これを見るのを目的にしてもいいかもしれません。

三菱史料館

https://www.city.bunkyo.lg.jp/bunka/kanko/spot/museum/mitsubishi.html

坂本龍馬とも関係があることが知られる岩崎弥太郎に始まる、三菱財閥の歴史を紹介している、三菱経済研究所附属の史料館。

「三菱は国家なり」という言葉通り、文明開化以後の戦前日本経済の成長は常に三菱と共にあったということも出来ましょう。そして戦後の財閥解体からグループの再集合まで、貴重な復元史料の数々が日本の近代産業・経済史を物語っています。

すぐ近くには、岩崎家が長らく本拠を構えていた邸宅を保存・改修した都立庭園「旧岩崎邸庭園」も立地しているので、併せて見学するのもお勧め。

三菱UFJニコスカードギャラリー

https://www.cr.mufg.jp/corporate/csr/philan/index.html

昨今キャッシュレス化の波が個人店を直撃していますが、それ以前のキャッシュレス手段といえば皆さんお馴染みクレジットカードでした。では、それ以前はなんだったのか。それがクーポンによる間接割賦販売です。

UFJニコスの前身の一つである日本信販もそうした事業を行う信販会社。このブースでは日本信販が歩んだ信販からクレカまでの歴史が学べます。紙製クレジットカードから近年の国際カードまでを総覧できる壁面展示はここでしか見れないでしょう。

なお、展示は本社のある秋葉原UDX16階の受付前にあるので、オフィスゾーンに行かなければならないことに注意です。

私が過去行った/未踏の企業博物館

この項では、詳しい内容は書かないものの、参考として博物館名を列挙していきたいと思います。

公企業

  • 鉄道博物館(JR各社)

  • 地下鉄博物館(東京メトロ)

  • たばこと塩の博物館(JT)

  • ていぱーく→郵政博物館(日本郵政)

  • NHK放送博物館(NHK)

  • NTTドコモ歴史展示スクエア(NTTドコモ)

民間企業

  • バンダイ本社展示コーナー(バンダイ)

  • IHIものづくり館 アイミューズ(IHI)

  • セイコーミュージアム(セイコー)

  • カップヌードルミュージアム 横浜(日清食品)

  • タニタ博物館(TANITA)

  • ミツトヨ測定博物館(ミツトヨ)

  • 紙の博物館(王子製紙ほか)

企業博物館の探し方

企業博物館はあまり広く知られていないことから、その存在を知ることがまず難しいといえます。

おすすめの探し方としては、一般財団法人経済広報センターの「企業の文化施設ガイド」があります。こちらのページでは、ガイド内検索が出来るので、在住地域、関心ジャンルや業種で絞り込んで、探してみるのが良いでしょう。

他には、Wikipediaの「企業博物館」があります。著名企業は概ね網羅されていると思われるので、ここを攻めるのもよいでしょう。

もっとも、地場企業にもなりますと、これらのサイトでの立項は期待できないので、各自治体のHP・広報誌やフリーペーパーを参照するのが基本となります。

あるいは、地元の博物館・美術館のリーフレット置き場を探してみると、紹介リーフレットがあるかもしれません。

まとめ

  • 企業博物館には平日のみ訪問できるものがある

  • 企業博物館はその企業活動に特化しており、他では見られない展示・体験も多い

  • 企業博物館はあまり知られておらず、見つけるのも難しい

さて、ここまで私が大学生活最後の一か月に駆け込んだ企業博物館を追ってきました。伝えたかったこととしては上記の箇条書きの通りです。

大学生活の前半は時間がだだあまりしていることも多いので、お金に若干余裕があれば、こうしたニッチな場所を巡って、「今月は何もしなかった…」という悲しみを紛らわせたり、知識欲を宥めすかしてはいかがでしょうか。


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