「第一回 - 980字文体シャッフル」に参加したよ
前説
文体シャッフルとはSCP-JPライター有志によってサイト外においても催されるイベントです。
特定のテーマに合わせて700字制限の超短編を書くサイトメンバーが持ちより、筆者を伏せて公表します。その上で、参加者一覧が開示され、それぞれの記事が誰によって執筆されたのか、当て合うというわけです。「文体シャッフル」のネーミングはここから来ているんですね。
今回はカノン-JP『1998年』の直近のカノンコンテストを主催されたSantouさんが、「1998年カノン！」をテーマに980字の文体シャッフルを主催したので、せっかくの機会だからと「私も参加してみた」、という「日記」になります。
投稿したNo.25
あなたの名前は渡会（わたらい）守（まもる）。
27才、男性。新瑞公立大学社会学部卒。貴重な学生時代を傍迷惑な環境保護・左派系の学生運動に費やし、不法侵入先で何かに感づいたあなたは、逃げるようにキャンパスと故郷を離れた。気づけば今の肩書きはフリージャーナリスト。所謂リベラル系のニュース・ブログサイトへの寄稿者の1人であり、執筆活動と編集部員の手伝いのような仕事をして、日銭を稼いでいる。
政令指定都市には似合いの、巨大な中央図書館からほど近いマンションの一室で、もう一つの「職場」から貸与された青海製のタブレットPCを開いて、あなたは大手ポータルサイト運営会社が運営していたブログサービスのバックアップを閲覧していた。これは、知り合いの通報以外に件の職場から依頼されているれっきとした業務の1つだ。
Webクローラーが作成したリストを上からしらみつぶしに閲覧、メタデータを採取、ページの要約・主題を作成し、アノマリーに関連するような事例があれば報告する。単調な作業だが、こうしたデータベースの作成が研究のために役立つことを、あなたは気まぐれで取った図書館情報学の講義から思い出してもいいだろう。
そうして貴重でもなんでもない日曜の午前を費やして要約文を用意する最中、あなたはディスプレイ上に違和感を感じた。最初に読んだときには無かったはずの一文。
「O/Oを知ってるか？」
不審に思ったあなたは、すぐさまスマートフォンでディスプレイを撮影し、連絡員に送信する。
「もしもし、こちらフィールドエージェントの渡会守です。現在、メタデータ採取中ですが、その最中、"オーオーを知っているか"という一文が現れました。以前通告があった事例に酷似しているので、報告します」
しかし、報告が終わって再びディスプレイを見ると、あの一文は何処にもなくなっていた。
まもなくして、電気屋に偽装した男たちがあなたの部屋にやってきて、辺りを捜索しはじめた。簡単な事情聴取を受けながら、自分のテリトリーであるはずの部屋のソファの上であなたは縮こまる。やがて彼らは特に何も得ることもなく帰っていくだろう。
そうしてあなたは最後に「再度遭遇した場合は目を離さずに連絡すること」と命令される。しかし渡会は、自分の目の前に二度と「O/O」の文字が現れることはない、とそう感じた。
実はイチから書いてない
実のところ、今回提出した作品（No.25）は文体シャッフル用にイチからこしらえたというわけではありません。アウター・オーサカに関係する下書きの下書きのまた下書きを少し前から用意していたのです。
アウター・オーサカの伝道者の1人、Dr_Kasugaiさんの半分没の下書き『O/Oを知ってるか』を知っているかに影響され、一般人がO/Oに呼ばれ、そして染まっていく過程を描きつつ、設定補強を広範にしようと考えていました。
「あなたの名前は渡会（わたらい）守（まもる）。」という書き出しは、ゲームブックを意図したものであり、ゲームブックのようなヘビーな記事は、ありていに言えば人生の岐路真っただ中の大学生が自分の「仕事」をほっぽって書く代物ではないと半ば放置されていたのです。
文体向けにずらしたところ
O/Oと渡会さん
この作品は98カノンでありながら98カノンではありません。98作品を参考文献にして、好みのテーマを浚うことで筆者を特定することは難しくなりますね。
実のところ、アウター・オーサカ要素をして「98」であると認識してリライトを始めましたが、O/Oは98であり98でない要素です。
主人公であるフリージャーナリストの渡会さんについても、彼はK-998にいるとも言えるし、いないとも言える書き方にしました。最後までヴェールの存在はあいまいにしましたし、「財団」の語も意図的に伏せました。
「政治・経済屋のたきおり」か？
98の私といえば、政治・経済屋みたいに思われている節があるので、少しずらしました。とはいえ、政治・経済ものは、ミシャリさんも海野さんも強く、一口に政治・経済ものといっても幅広いので、下手に出すとすぐにばれてしまいますからね。理外研なんて口を滑らせた日には、ロックオンです。
今回については、渡会さんの経歴あたりからは別著の雰囲気が漂いますが、98作品ではあまり出していない色です。Twitterあたりで文体参加者を増やそうとして、「新聞フォーマットならすぐ書けるぜ」と言ったのも、意図せず陽動になっていたかもしれません。
ヒントになったところ
新瑞
「新瑞（あらたま）」は少年SCP団の舞台として設定されている舞台です。記事は書いてはいませんが、絡んではいるのでもしかするとわかるでしょう。筆者にも当て側にも専用サーバーに入ってる人はいましたね。
ちなみに新瑞はBriar相当Asphodel未満（アノマリー多発地域だが住人は超常コミュニティに属していない）と言えるだろうネクサスです。渡会くんが不法侵入しちゃったのは、財団のフロント企業の研究所か工場といったところなんですね（で、財団に目を付けられた結果雇用されたと）。
傍迷惑な環境保護・左派系の学生運動
こんな思想を語り手に持たせるひとは98社会派マンかODSSライターぐらいしかいないんじゃなかろうか、ということです。
「環境保護思想や反化学論の進展は、これまでヴェールの一端であった、主流科学への信頼を切り崩しつつあり、ソーシャルメディアによる陰謀論の支持拡大も大きな懸念です。」という一節も、自著にありますし、ちょっとしたヒントにはなるかもしれんとは思っていました。
青海
青海は土橋さんがプリチャード学院まわりで扱っている財団のフロント企業です。使い勝手の良い団体なので、自著でも何回か使っていますが、他ではあまり見かけません。
「プリチャード学院高等学校: 学際・教養科目『超常科学・超常技術史基礎Ⅰ』～」や『プリチャード学院大学: 人文学教養科目『アーカイブズ学A』特別講義～』、『爆転ニギリスシブレードウエハースVol.1』で登場しています。まあ、いずれも98外ですが…。
図書館情報学とアーカイブズ学
図書館情報学とアーカイブズ学は近接分野です。『プリチャード学院大学: 人文学教養科目『アーカイブズ学A』特別講義～』を呼んでくださった方なら、ワードチョイスから察していただけるかも…と思って期待しました。もっとJPでもアーキビストが注目されるといいね。
アウター・オーサカ
そもそもアウター・オーサカを幻覚を出すまで推している人々が少ないので、正直アウター・オーサカを出しただけで特定されるんじゃないかと、内心ドキドキしていました。
結果と感想
結果としては、私（No.25）を当てることができたのは、O92さんだけでした。投票も七人七色というわけで、O/Oやゲームブックフォーマットを選んで、普段の98自著からずらしたのは功を奏したといってもいいでしょう。ひとりにだけ当ててもらえたというのはとっても嬉しいです。
ただ、「Tark_IOL説」が出ていた文体はいずれもゴリゴリの政治関係の記事でしたね。実のところ私の既存記事でメインで取り扱っているのは歴史・社会・技術・経済（雰囲気）辺りなので、「これがTark_IOLの記事だ」と確信を持たれたのであれば、ちょっと寂しいところではあります。なんとなくで行ったのかな、どうかな。
実際に当てたO92さんにお話を聞いたところでは「メルボルンと雰囲気似てるな」と気づいたそう。地の文で当てたのか登場人物の動きで当てたのか、そのどちらなのかは分かりませんが、まさしく「文体当て」だったと言えるでしょう。
それにしても、読み直すとほんとに、私は「異邦人が新しい世界に巻き込まれてそこに馴染む」というフォーマットが好きだって気づきましたね。ひとつ大きな発見ですが、私の半生に照応しているようで何だか面白みがあります。
さて、以前から文体は出たいと思っていたので、今回期せずして参加できたことは僥倖でした。ただ、塩漬けをリライトという搦手を使ったことも事実なので、次回参加する機会があれば一から挑戦したいです。コンテストの練習にもなりますから。
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