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教育データ利活用と憲法

日本教育工学会 2022年秋季全国大会のシンポジウムが
「AI活用・教育データの利活用とその課題」でした。
岡山大学の堀口 悟郎先生が,教育データの利活用と憲法についてお話してくださいました。

以下,わたしのつたない記憶とメモだよりに書いてますので,
間違った記載があったとしたら,すべてわたしの責任です。

教育データの利活用を憲法の観点から論ずるとすると,
以下の3つの論点があるそうです。
・プライバシー権
・教育を受ける権利
・教育の自由

◯ プライバシー権

■ 日本型学校教育の問題

日本型学校教育というのが,そもそも生活共同体的な活動が多い。
(運動会,部活,給食,掃除などなど)
人格形成教育のようなことが重要視されていて,センシティブな個人情報を扱わないというのが難しい。
生徒は学校にいる時間が長いので,様々な活動の中で大量の情報を集めることができてしまう
→単純な個人情報も組み合わせでセンシティブな情報になりうる

箕面市の「子ども成長見守りシステム」
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/yuushikisya/k_11/pdf/s2.pdf
子どもの情報を一元化
「明らかに本人の利益になる」かどうかの判断は難しく、
また、個人情報保護制度への過剰な反応もあり、
条例10条2号に該当するとして情報を提供する判断は
実務上、されていなかった。
箕面市は個人情報保護条例を改正。以下の場合は収集目的外利用可能とした。二 市の執行機関に置かれた附属機関の意見を聴いて実施機関が定める者について、その心身の保護又は生活の支援の目的のために必要があると認めた場合三 前号に掲げるもののほか、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になる場合

■本人の同意

個人情報保護法で,以下の場合,本人の同意を求めることを必要としている
・18条の1 個人情報の目的外利用
・20条の2 要配慮個人情報の取得
・27条の1 個人データの第三者への提供

同意の主体は誰か
一般的な法制度:生徒が未成年で判断力が十分ではない場合,保護者の同意を得ることが考えられる。
しかし親の判断が生徒本人の意に沿っているとは限らない。
何歳からが本人の同意が適切?:アメリカ13歳以上,EU16歳以上。日本はどうするか立法化の必要性

同意の要件
GDPR(EU)では,任意性(強制されず自由にされる)が同意の要件
拒否・撤回できないものは任意性が認められない
管理者とデータの主体のひとの力が不均衡な場合,「同意」はデータ利用の正当な根拠とは認められない

日本でも,同意しないことで生徒が重大な不利益を被る場合に
同意は任意性を欠くので無効となるか

同意の効果
同意があればなにをしてもよいか?
AIなど大人でもデータ利用の影響範囲が予測できないものについて,子どもが判断できるか
同意の範囲を限定すべきか

自己情報コントロール権
自己情報コントロール権「本人が必要な範囲で自己の情報に適切な関与ができる」→自律重視
個人情報保護法→保護重視
子どものプライバシーは自律よりも保護重視の方がよい?

◯ 教育を受ける権利

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

・能力以外の差別禁止
・学習権という考え方も含む
「人間が、自己の成長を図り種々の能力を向上させ、また真理を探求するため、自由に学習し、学習活動に必要な条件を要求する権利」(出典:コトバンク)

「教育の個別最適化」っていうけど,「最適化」はマジックワード
AIが提案した学習が,本当に最適なものか?
本人の意志と齟齬が出る可能性もある

尼崎高校事件
『不自由を選ぶ自由』があるという判決

日本学術会議「教育のデジタル化を踏まえた学習データの利活用に関する提言」
教育に係る選択は本人が実施するものであり、学習データを利用した推薦や提案が本人にとって決めつけや押し付けにならないようにする

◯ 教育の自由

教師の教育の自由
権力によって,偏った内容を教えたりしなくてよい
教える内容や方法は教師が決められる
→教師が防波堤になれる
EdTechなどの場合,教師の存在がスルーされて防波堤になれない可能性
→教科書を国が統制,内容を民間企業が決定
→「不当な支配」が発生する可能性

(参考図書)
「AIと憲法」P270-273

教育データの利活用問題について憲法学者はおきざりに?

どの有識者会議に憲法学者は入ってない
 教育データの利活用に関する有識者会議
 日本学術会議「教育データ利活用分科会」
 「未来の教室」とEdTech研究会

予防を考える
Privacy by Design
 設計段階からプライバシー問題について考えておこなう
Human Rights by Design

教育データの利活用が本格化し,問題がおこなってしまった後では取り返しがつかない
データは回収できない場合もあるし,なにより子どもが被った不利益による影響は取り返しがつかない

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