最後の桜
春めく陽気に、膨らむ蕾。
二分咲きが五分咲きに。
街が桃色に色付いていく。
満開の桜に、心踊った。
桜吹雪に淋しさを重ねた。
多くの桜の木は葉桜になっていく。
ふと、恩師との会話を思い出した。
「私ね、草抜きしながら草とお話ししてるの」
嬉しそうに、そう言って笑っていた。ちょっぴり驚いたけれども、何となく分かる気もする。机上には、いつも花が飾られ、植物をとても愛しているのを常に側で見てきたから。
「〇〇さんらしいですね」と返したのを覚えている。本当に世界観が素敵な方。離れ離れになってしまって、少し寂しいのが本音。憧れの人に、私は近づけるのだろうか?
そんな、かつての恩師とのやりとりをふと思い出し、葉桜を見上げる。ポツリ。ポツリとまだ咲いている。咲くのが、みんなよりもゆっくりだったお花。まだまだ、散ってたまるかとしがみつく花びらたち。
私も
「がんばれ」
と、心の中で呟いてみた。
みんなが〝一緒〟に花を開き、咲き誇り、散りゆく瞬間を多くの人は楽しむ。けれども、最後の一輪まで、咲いている花に気付けるような人になりたいな。恩師ならきっと、葉桜を見上げてこう言うと思う。
「ほら、あそこ。まだ咲いてるよ。
最後の桜だね」って
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