機動刑事ジバンを観た!

 東映特撮チャンネルで配信されていた『機動刑事ジバン』の全編を観た。
 田村直人という刑事がある環境汚染から発生したバイオノイドという化物と戦って命を失うが、ジバンに改造されて復活し、バイオノイドを率いる悪の組織・バイオロンと立向かっていくというあらすじ。
 題名から分かる通り、ジバンはライダーでも戦隊でもない、メタルヒーローというシリーズの一作だ。アメリカの有名なSF映画『ロボコップ』の本家と言えば分かりやすいか。今では新しい作品は造られていないが、その要素は平成ライダーに決定的な影響を残した。

 三十年前ではあるが、ジバンのデザインは今見ても見劣りがしない。同時期に放送されていた仮面ライダーBlack RXと同じ斬新さがある。後発のネオライダーの方が時代に逆行しているような気がするくらいだ。その機械的な外見、歩く時にもきしむみたいな音が鳴るし、脚から剣を取りだすし、胸の液晶に警察の紋章が浮かぶ所など、ライダーに比べても重厚感がある。警視正という身分を明かす所からしても、現実を重視した作りになっていると言える。更に言えばこの顔つき、RXのロボライダー及びバイオライダーと似ている。どうもデザイナーが同じ人らしいのだ。特撮作品の横の並びがほの見える。
 この機械的フォルムがのちの『仮面ライダーアギト』のG3シリーズに継承されていると思うとわくわくしないか?

 敵のバイオノイドのデザインも凶暴性がなかなかよく現れている。このバイオノイドも、敵の組織によって製造された怪人、という以上のひねった設定だ。各バイオノイドのモチーフも歌舞伎であったり、偽物の母親だったりと、奇想天外を極める。このバイオノイド相手にどう苦戦して勝利を得るのか実に見どころ。

 配役の佳人率が高い。洋子先輩を始め、バイオロンの首領・ギバの側近であるマーシャとカーシャ、それから謎の生命体クイーンコスモといい、男女ともに美の花道なんだよな。あと三枚目の脇役・清志郎も最初は少し嫌な奴として出ていたが、いい味を出していくようになる。彼が妹のように大切にしているまゆみちゃんを忘れてはならない。幼いのに、ただジバンの秘密を知っているという理由で、作中たどる過酷な命運は筆舌に尽くしがたいものだ。
 誰一人としていらない人間がいない。ゲストも、時たま豪華な人物が出演していて、その経歴を調べるのも楽しい。
 名悪役マッドガルボ! これほど武骨で、恐ろしい姿でありながら女の声だったのは最初違和感があったが、すぐに慣れた。彼女はただ力が強いだけでなく、知能にも優れ、卑劣な計略に陥れて一度ジバンを倒しているし、まさに悪の華という言葉がふさわしい。時にはジバンと同じ姿になって闘い合ったりして、最期まで直人を苦しめ続けた。
 でも二人の最期はあっけなさすぎた。そこでジバンにそんなこと言うか!? せめてギバに力を捧げるとかして退場しようよ。最終回へのテンポはそれほどゆったりとしたものではないが、怪人が次々と倒され、終盤でとうとういなくなるのはどこか寂寥感がある。

 単なる勧善懲悪が続くのではなく、義妹の行方不明や、復活など、時々に重大な節目が挿入される点で、それ以前の特撮物に比べて進歩が見られる……気がする。クイーンコスモという警察でも、バイオロンでもない第三勢力はかなり話を盛り上げたし、直人自身の身の上の複雑さとまゆみちゃんとの関係性が非常にドラマ性に重みをもたせていた。
 人間ドラマもそうだけど、それ以上にこの作品は科学技術の発展がもたらす危険をほのめかしている。ジバン自身が超越的な技術の産物であったし、バイオノイドもその負の側面に立つ者として、ジバンの対極に位置する存在なのだ。そして、終盤で明かされるギバの正体。まだ粗削りでお目見えという段階から脱け出せてはいないけど、この重いテーマ性も後の作品に確実に受継がれてる。

 ジバンも初期の仮面ライダーと同じ匂いがする。直人は決して洋子たちに正体を知られてはならないのだ。だからお調子者の直人の時と冷徹なジバンの時では話し方が全く違うし、そのギャップが大きな魅力なんだけど、それは彼にとって望まずして背負ってしまった重荷なのだということを忘れてはならない。そして終盤、バイオロンの攻撃によって直人は自分の機械の体を管理してくれる拠点を失い、親しい人たちに別れを告げて旅を出る。昔の英雄叙事詩を彷彿とさせる結末。
 何でも、直人を演じた俳優は機動刑事ジバンを最後に引退したらしい。これが自分の最後の仕事だと信じていたからだそうな。役柄の格好良さが中の人にも現れているような気がする。
 
 この頃は大体一話完結なのだろう。話が早いし、だれたりしない平成ライダーは大体二話完結だから、話のテンポはまた違う。どっちがいいかではなくて、脚本家の技能なのだろうね。他のメタルヒーローも観てみたいと思いたくなった。