今後のAIの発展とそれによって起こるであろうことについて つづきのつづき

思った以上に長くなってしまったが、これを最後と思って続きを書いてゆきたい。因みに私はベーシックインカム(以下BI)には賛成ではない。いままでBIは一定の地域で試されただけであり、国全体で導入した実績がない。世界で一番最初にBIを導入したときに為替や国際競争力にどのような影響が出るのかは未知数であり、基本的にはネガティブな影響が強いのではないかと考えている。しかし、もし全世界がそのように動かざるを得ない状況であれば国家間のBIによる影響はほぼ無くなるので、その時であれば導入は可能なのかもしれない。

さて政府がBIを導入し、その原資をどうするかというのは一番の問題になってくる。人口が減っているとは言え4500万世帯に平均25万を支給したとすると11兆2千5百万である。政府は一時の平和を手に入れるために資本主義が崩壊する可能性に目をつぶり、それだけのお金を配ることを決意するのではないだろうか。そして今の中央銀行による国債買い取りと同様の手順でもはや返金することも考えずに国債を発行し続け、国民に配り続け、より良い方策がないかを検討する時間を稼ぐのである。

ここまでが実現した場合、企業はどうなるだろうか。基本的にマーケットは顧客減少にさらされた結果、体力の無いものは駆逐され、各分野で数社生き残っている程度である。狭い業界では生き残りが一社のみということもあるかもしれない。そこに急激な顧客の復活である。どの会社も活況で売上と利益はどんどん大きくなり一種のバブル状態である。それらの資金を使ってより高度なAIを育てることで、競争は激化するが、計算リソースと最適化の限界からそれらの競争は概ね均衡状態となると予測している。

続いて他国との競争についても話をしたい。BIが導入され、かなりの現金がジャブジャブの状態で供給された時、先ずはBIの導入された国のお金は売るだろう。なにせ何も考えずに国債を発行しまくって財政赤字の膨張は待ったなしの状態である。しかしその国の通貨が安くなるということは輸出企業にとっては他国への進出がしやすくなるということである。AIによってオートメーション化された商流は同一品質でもコストの安いものを求めて契約を自動的にどんどん切り替えるようになっているに違いない。ある程度の通貨安は大歓迎である。他国の防衛策は関税の設定か対抗的BIの導入である。

ただ、国の構成によっては相手国に関税を設定されることで目も当てられないインフレが発生する可能性もある。逆に例えば自給自足が高い割合でできる国であれば国内だけである程度の発展を一定期間維持できる可能性があるのでBI導入に踏み切りやすいのではないだろうか。しかも他国もAI企業により似たような状態である。BIを導入する国が少しずつ増えるなら、それらの国同士は貿易した方がお互い助かるわけで、徐々にBI導入国の貿易ネットワークが構築されるはずである。そうなると逆に関税を設定した国で自給自足できない国は通貨高で輸出もできず関税があれど相手は通貨安なので輸入品ばかりが入り込んできて、BIに移行せざるを得ない状況となるのである。

こうしてBIが全世界で導入された結果、遂に国際関係は定常状態に至るのである。企業は毎年のインフレ率に合わせて値段を調整したいところだが、BIもインフレ率に合わせて支給が調整され、他国のAI企業の価格についても考慮する必要があるため基本的に膠着状態である。この膠着状態は流行り廃りによる波はあってもビジネス戦略的な状況変化は概ね望めない状況である。加えて自国通貨がもはや信用できないとしても他国通貨も似たような状況である。仕事につけた人はBIだけの人より良い生活ができていることは事実であり、辞めるわけにもいかない。競争自体は存在し、より細やかなニーズに合ったサービスや技術を提供し続ける。

これは一種のユートピアではないだろうか。企業に入った人はかなり裕福な生活ができるはずである。そうでない人はほどほどの暮らしの中で好きなように生きることができる。膠着状態においては倒産自体がかなり稀な出来事になるだろうが、何かの切っ掛けで企業が倒産してもBIのおかげでなんの心配も無用である。

しかし忘れてはならないのはどの国も国債だけは発行し続けなければならない状態なことである。正直この状態で国債を発行し続けるとどうなるのか想像もつかないが。安定を考えるのであれば税収の範囲内で運営できれば理想的ではないだろうか。例えば日本の税収の4割は行政での人件費であり行政サービスのAI化による経費削減に加えて年金や生活保護、福利厚生費の一部、をBIにインクルードするのであればその道もあり得るのかもしれない。そうでなくても毎年のインフレ率が高いのであれば、税収の増加分と発行した国債の総体的値下がり分を加味して安定化する道もあるのかもしれない。

もし、安定化できなかった国が出てきた場合、どうなるのだろうか。もしかすると隣国に政権を渡すことで国民の生存を図るのかもしれない。場合によっては他国の企業連合が政府の代わりにお金を配り必要物資を供給しその国をコントロールすることもあるかもしれない。既にこれを資本主義と呼ぶべき状況であるのか甚だ疑問ではあるが、企業は競争し、自律的に商売をしており、社会主義とも呼べない。しかし経済的パワーを使うことで隣国を統合し、経済範囲?を広げて行くことができるのである。こうして徐々に国は経済的安定性の高い国へと統合され、最終的に世界は両手で数えられるくらいの安定した国だけになるのである。めでたしめでたし。

かなり仮定と妄想を重ねたシナリオだと自分でも思うが(厳密性を求めてはいけない!)今の世界情勢の中で将来大きな戦争は起こりにくいと私は考えており、そうなると国民感情的、政治的、経済的な問題だけで物事が進んでゆくだろうと仮定してシナリオを考えた。結果的に社会は極端に二階層化されることになるだろうが、多くの人が何もしなくても生きられる世界が到来する。私の様な金のかからない趣味に生きる人間には天国のような世界である。先ずはBI導入までなんとか生き延びねばなるまい。