MMTまとめと検討 6 格差考2

前回、閉鎖経済かつ政府収支0という仮定で民間部門を企業部門と、3つの資産階層に分けて検討を行った。結論として富裕層に自然とお金が集まる形になるだろうという結論であった。

逆に企業部門、一般層、貧困層からは時間と共にお金が減って行き、それに合わせて経済活動は縮小することはほぼ確定ではないかと思われる。この状態で経済活動を安定させるには、つまり全ての層が安定的に生活できる経済にするためには、信用倍率を上げ、流れるお金の量を減らさないようにするか、富裕層の収支に等しい投資損が発生するかである。

ここに政府部門が入ってきた状態を考える。政府部門の仕事はこの国の経済を永続的に循環させることである。そして政府には徴税する力と制度を通してお金を流し込む力がある。前回の企業部門(Co)、富裕層(Ri)、一般層(Ge)、貧困層(Po)に政府部門(Go)を追加する。基本的な式は同じ様なものである。

Go収支+Co収支+Ri収支+Ge収支+Po収支=0

Go金融資産+Co金融資産+Ri金融資産+Ge金融資産+Po金融資産=0
(金融資産はお金のみ)

はたして政府部門が入ることで循環する経済というものを実現できるのだろうか。

もしお金の発行量を増やさずに全体をフローさせることを目的とするなら、政府部門は富裕層および黒字部門から、その収支分の税金を掛け、赤字部門へ減った現金分を支出として各層に再度流す、ということになる。つまり以下の様になれば良いという事になる

Go税収=Ri収支+黒字部門収支

これは富裕層に以下の様になる様、税金で収入を調整するということである。

Ri収入=Ri支出

なんとも社会主義的?な経済である。気持ち的には上手くいかない気がしないでもないが、正直判らない。

もう一つは富裕層の金融資産増加量に合わせた補填を実施するという方法である。政府部門は一年前の各層の金融資産に増加分を掛けた金融資産になる様に他の赤字部門にお金を発行するのである。これによって富裕層は富裕層でお金を稼げるし、赤字部門から相対的にお金が減ることは無い。

しかし誰にどうやって配るのか、という点はかなり難易度が高い。企業は倒産せず、人は適当な仕事をしていればお金が手に入る。ちょと現実的ではないのではないか。

さて、ここまではお金だけを見た話しである。もしお金の格差拡大を天才的制度設計によって実現したとする。富裕層のお金だけ見た収支は収入から支出を差し引いた額なわけだが、支出の中にはお金を直接的に生み出す資産も入っている。お金でみればこれは支出だが、来年にはその資産は追加のお金を生み出す装置である。

つまり富裕層は年々それらの資産を積み上げることができる。その量は他の層が購入できる量を大きく超えるだろう。そうなるとお金での格差は抑制できても資産の格差は拡大し、結果的に収入格差も拡大して行くことになる。

その差を是正するためには、政府部門はそれらの資産に対しても何らかの税を掛ける、あるいはその差を埋めるお金の発行が必要である。ここまでくると、これは失敗した社会主義に近い世界だろう。上手く行く気がしない。

この点、MMTでは政府が完全雇用を実施することを提言している。上で見てきた様に格差拡大は防げないだろうが、お金が減ったことで弾かれてしまった人たちを中心にお金を流すという点ではセーフティーネットとして判りやすく、良い考えに思える。それは生活保障ではなく、働く気のある人達への雇用でなくてはいけないという点も納得感がある。

懸念を言えば、それで生活できたとして、政府の仕事が一番楽で首にもならない天職になることである。何せ保証されている、ということは首にならないということだ。さぼった時の罰則や、働く気があるんです、という主張に何ができるのか。やる気の無い地方公務員もどきが吐き気を催す程増える未来しか見えないのは私の歪んだ性格故だろうか。

あえて言えば自分なら居座る。晴読雨読の人生終生モラトリアムだ。MMTで主張される様な、経済状況に応じて労働力を自動調整する有効な制度を提案できるだろうか。多分できないだろう。この世から泥棒が生まれない様な素敵な世界を作ればいいんだ!というのと同じレベルである。

さて、相変わらず纏まらない検討だったが、数字だけで言えば上からとって下から流す、と非常に単純な話である。私の頭ではこんなところが限界で、正直、制度的に格差拡大を止めることはできないだろうと感じる。頑張って止めると国の発展が止まりそうだ。いや、気のせいなのかもしれないが。

資本主義的な格差拡大を制御して、なお文明が発達してゆく形があるのであれば、それは正に求める経済制度と思えるが、はたして人を抑制することなくその様な経済を構築可能であろうか。

人を抑圧して豊かになった国というのは今まで見たことが無いように思う。中国ですら抑圧を緩めて一気に成長したのだ。誰も好んで、四畳半に家族4人で布団を取り合う生活をしたいなんて思いもしないだろう。チャンスがあるなら人より成功して、人より良い生活をしたいと思うものだ。少なくとも自分が人並みと思う生活くらいは送りたいはずだ。

そういった欲を発揮して文明を発展させながらも綺麗に循環する経済というものがあるのだろうか。あるいは民主主義が失敗した政治の中で一番マシな政治の様な話があったが、資本主義もそういう事なのだろうか。

経済学者先生の次回作に期待である。