MMTまとめと検討 5 格差考

前回、資産格差が拡大しても基本的に市中のお金の量と流れが安定している場合、GDPに対する影響はない。それが個人的に幸せであるかどうかは別にして、お金の流れが変わらない限り安定的な経済活動が可能であるとした。

さて、上の様な状況が正しいのであれば格差の拡大は貧困を増加させない。しかし実際の日本では貧困層が拡大しているという話がいろいろなところで話されている。そこで貧困層が拡大する要因を検討してみる。

簡単のため、閉鎖経済かつ政府収支0である状態を考える。この世界には企業部門(Co)と富裕層(Ri)、一般層(Ge)、貧困層(Po)しかおらず、政府は無償で治安を提供しており、治安は今の日本の様に維持されているものと考える。この場合以下の式が成り立つ。

Co収支+Ri収支+Ge収支+Po収支=0

Co金融資産+Ri金融資産+Ge金融資産+Po金融資産=政府金融資産(負債)
(金融資産はお金のみ)

さて、この二本の式を見ているとわかることがある。全項が収支黒字ということはあり得ないということと、金融資産のトータルは政府負債であり増減しない。

ここでお金の流れを考える。富裕層、一般層と貧困層は殆ど直接収支をやり取りすることは無い。唯一あるのが富裕層の所有する賃貸から家を借りて直接賃料を収めるときである。それ以外は企業を通しての収支のやり取りをし、各層が直接お金を他の層にあげる事は無い。

また、3層の所得は基本企業部門から得られるものである。つまり給与や賃料、配当や利息ということである。企業部門の収支は他の3層と企業部門の他の企業へ財やサービスを購入してもらった支払いである。この構造は正にマクロ経済学のフロー循環図と同じである。

それらが年初と年末に収支がバランスしていたなら、上の式の全項が0という事である。逆に言えばお金を貯蓄できると言うのは他の部門が赤字になるということである。

例えば、貧困層が貯蓄0で一般層が少し貯蓄できて、富裕層が大きく貯蓄できるのであれば、企業部門は必ずその貯蓄額分の赤字である。驚くのが、不景気であってもどこかの項は必ず黒字になるということである。

さて、ここで富裕層についてもう少し考える。富裕層の特徴として、お金を生み出す資産を持っている。土地や債券や株式である。そして富裕層は基本その収入範囲で生活が可能である。そうなると、何か不測の事態が起こらない限り富裕層の収支は必ずプラスである。つまり常に

Ri収支>0

が成り立つ。ここで富裕層の収支をさらに細かく見てみる

Ri収入=給与+利息+配当+賃料

Ri支出=消費+債券投資+不動産投資+返済(借入)+借入利息

そして基本的に富裕層は以下の式が成り立つため、常に資産を増やし続けることが判る

Ri収入>Ri支出

さて、ここでRiの収入というのは資産ではなくお金である。つまり、この世界において富裕層には必ず誰かのお金が流れ込むことが判る。つまり以下の式が成り立つ

Ri収支 > Co収支+Ge収支+Po収支

その結果として収支プラスとなった富裕層のお金は銀行に預けられるため、そこから誰かへの貸し出しやローンとしてまた市中に戻ってゆく。しかしそれは誰かの借金(ローンや貸出)として出ていく。つまり、市中のお金の量は変わらないが、借金を巻き戻すと富裕層に戻ってくることが判る。

ここで銀行が貸出を増やさなければ中央銀行に預けられ、市中のお金はどんどんと減ってゆくことになる。お金が減れば企業活動もスローダウンするので、一般層と貧困層でお金を手に入れるのは難しくなってくる。そういった状況では銀行も貸出は増やさない、むしろ減らす様に思われる。つまり最終的には経済は停滞するということである。

この場合何が起これば全体がバランスするだろうか。考えられるのは定期的に富裕層の出資した会社が倒産することである。これによって富裕層のお金が定期的にリリースされ、Ri収支<0が実現する。毎年これで富裕層の一部が下の層に落ち、下の層の誰かが上に行くような事態がバランスする様に発生すれば良いということになるだろうか。

前回はあまり格差そのものは市中のお金を減らさないのでGDPに影響を出さないのではないかと考えたが、どうも格差の拡大はGDPに影響しそうである。

経済学(の一部?)ではトリクルダウンという理論があったが、どう考えても富裕層個人からトリクルダウンするようなルートは無いように思う。彼らは一体どういった理屈でそうなると思ったのかかなり謎である。上の例では政府活動を一切考えていないとは言え、もし政府活動を考えたとしても富裕層からあふれ出るものは殆どなさそうな気がする。

次回は政府の活動を加えて考えたい。

つづく