MMT(現代貨幣理論)入門感想

MMT入門を読み終わったので、感想を書いておく(書評ではなく、感想)。このMMTというのは今後経済学を変えるのではないかと評判があるとかないとかで一時期(今も?)話題になった経済理論である。

まず最初に、MMTの発想は今までの常識をひっくり返す考え方で、個人的には非常に興奮を覚えた。今までのマクロ経済学と何が違ったのか、改めてマクロ経済学の本を読みなおしてみた。まだいまいち掴み切れておらず、上手く表現できないがメモ程度で残しておく。

まず私がマクロ経済学で違和感を持っていたのは、いろいろなものが非常に曖昧に扱われていたからであった。もちろん理論である以上抽象的な部分が存在するのは仕方がない。しかし何やらモヤモヤする理論構築である印象があったのだが、MMTを読んでその違和感がある程度明確になった様に思う。

例えばマクロ経済学の恒等式はGDPなどの計測結果を基礎としている。しかしそのGDPには、お金のやり取りの無いものと有るもので、入るものと入らないものがあり、自分にはいまいち釈然としなかったのである(購入済み住宅や中古品の取引等)。そういったあいまいな仕分けが挟まっているにも関わらず理論的に正しいとはどういう事なのか、いまいち納得しかねた。

さらにマクロ経済学の基本概念は市場と主体から成っている。ここに政府は存在せず、経済循環のみがクリップされた形からスタートしており、実態としての政府の位置づけというものが欠けているのである。もちろん政府もある役割を割り当てられて存在するが、実在するが故に出てくるのであって、経済学的に存在理由があって出てきている様に感じられないのである。

そして全ての取引には一つの便益計測による価値基準があり、通貨というものはたまたまついた数字で、あまり意味を持たない。これは貿易が入ってきても同じであり、通貨の単位が違うことはあまり問題にならず、便益による価値が基本で為替等も決まってくる(ように見える)。

それに対してMMTは国と通貨の関係から入っており、通貨というものが非常に明確である。すなわち、その国の通貨は(現物であれ電子的であれ)その国が発行した量しか存在し得ない。そして通貨発行は負債であり、政府機関部門、民間部門、海外部門のその通貨の合計は0になる(マクロ経済学に合わせてか収支が0としている)。これは非常に明確な通貨の理論であり、制約条件である。(もちろん現実にはいろいろな原因で棄損するが)

巻末解説を読むと、マクロ経済学者から見るといまいち従来のマクロ経済学から言えることがほとんどで違いが判らない様なのだが、確かに自分も上手く説明できない。しかし、このアプローチの違いは数学で最初に選択する公理が違えば上の理論で言えることが変わってくるのと同じように、導かれる理論が異なるのではないかと感じるのである。一つ特徴的であったのが、通貨発行と国債発行による効果に対する考え方の違いである。

そういったわけで基礎部分は堅い理論を構築できそうな雰囲気なのだが、それより上はかなり雑な作りで、弱い理論というべきか、議論が基礎に根差していないというべきか、分厚い本の割には密度は結構薄く、ちょっと残念な内容であった。基礎部分から出てきた規則というよりは、著者がそうであってほしい話が基礎理論内で成り立ちそうだからそう書いてるという感じの話が結構あるのである。

加えて残念なのが、ハイパーインフレについて、ただ通貨を発行しすぎればある、とだけ書かれていたことである。自分は増え続ける日本の国債発行額をどう考えるべきか、どういう状態でハイパーインフレが起こるのかが知りたかったのだが、結局のところ、この点はマクロ経済学同様役に立たない様であった。しかし、少し安心したのは、国が財政赤字を増やし続けるという状態そのものが危険なわけでは無い、という考え方もあるという点である(実際は判らないが)。

あと、個人的に楽しめたのが(基本悪趣味なのである)、たぶん学会等で虐げられてきたのであろう怨嗟が文章からにじみ出ている部分があって、世の中に理解される難しさを感じたのであった。また、理論構築の上で重要でない金融操作に関する細かい説明などが長々とあり、なんだか文句を付けたいだけの人にどうでも良い細かい点をチクチクと攻撃されたのだろうな、と勝手に妄想しながら読んだのであった。

この主流派に受け入れられないというのは、行動経済学も同じ道を歩んでいる。以前読んだ行動経済学の逆襲という本があるのだが、彼らの活動も地道に50年?近くも掛けて理解者を増やし、ようやく日の目を見たという様な内容であった。行動経済学はコツコツと仲間を増やし、生きている間に世に認められたわけだが、正しいことと受け入れられることは違う、ということを感じさせる本であった。

MMTへの期待としては、一国経済と貿易を含めたマクロ経済学を通貨の観点から明確に説明された形で書き換えができるのではないか、ということである。将来はマンキュー経済学くらいの密度で(厚さだけは近い)、実用性の高い本を作って欲しいと期待している。

久々に経済学を見直してみようと思える機会であったので、ある程度消化できたら、またメモにまとめたい。