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【キワノエッセイ・もしくは解説】

キワノ小説を書いたけれど、キワノと言ってもあまり想像がつかないので、キワノ付きで小説を売ることにした。 キワノは別名ツノニガウリという野菜だ。キワノという名前は覚えにくくても、ツノニガウリだと覚えやすいかもしれない。キワノの特徴は皮の表面が尖ったツノで覆われていることだ。ウリ科キュウリ属のつる植物。葉っぱはキュウリに似ているし、黄色い花が咲く。カボチャ、スイカ、キュウリといった他のウリ科の夏の旬を終えた秋頃に、奔放に延びた蔓のあちらこちらに小さなキワノがつきはじめる。そのキワノの実は小さくてもキワノだ。それが無事に大きくなるかは、他の野菜や生き物と同じくまだわからないけれど、楽しみが増える。

なぜキワノを育てているかというと、15年程花脊という京都の山奥で家庭菜園をしているが、毎年野菜を育てていると「いつもと違ったもの」をちょっとずつ植えたくなるからだ。キワノとの最初の出会いは、有機野菜などを取り扱う八百屋に寄った時だった。八百屋のはずが、これは野菜か、とまずは思った。野菜としてはみたこともないツノに覆われた造形に魅了される。ツノだけでなくツノの周囲に施された点描画のような白い模様にも見入ってしまう。変化を拒むツノと独特の模様とはうってかわり、持って帰ってその日から眺めていると、色は果実の成熟の進行具合と時間の経過を示す。緑色から黄緑色へ。静と動がキワノを形作っている。そしてこの時のキワノが黄色く熟したのち、種を採種して、花脊の畑に撒いた。今年でキワノを知り3年、育てて2年になる。

キワノの原産地はアフリカである。アフリカでは伝統的な食料で、砂漠地帯の貴重な水分源となる。スイカもアフリカの原産で、砂漠の大事な水分源である。ちなみにキュウリはインドやヒマラヤ山麓が原産だ。キュウリやスイカに対して「ほとんど水分」という言い方があるけれど、場所の環境や気候によってはそれは大変重要なことを示す。食べ物はあらゆる命の源である。そして故郷の砂漠に準ずる気候や環境下での重要な水分貯蔵方法となることを、日本の四季を通して夏の暑い時期に採れるスイカやキュウリは提示していたことをあらためて知る。 なぜここで水分貯蔵の重要性を強調する必要があるのかといえば、食べる段になるとキワノはとても頼りない気持ちになるからだ。それはつまり、味に大いに関係する。見た目に惹かれるまま手に入れたキワノだが、熟すとされる黄色に変化したキワノを半分に切ってみると、中にぎっしり種とゼリー状の実が詰まっている。種はメロンのものに似ていて、白くて薄いがわりと主張もある。食べ方はスプーンですくってゼリーのところだけを食べるとも、種ごとパリパリと食感を楽しんで食べるのとも言われている。しかし、スイカは甘いが、キワノは味が本当に無い。到底美味しいとは言えず、それより味がわからないので、結局食べ方もよく分からない。そもそも野菜なのか、いや、果実ではないのか、という鋭い問いも投げかけられることもあるのだけれど、その答えも正直わからない。全てこれはキワノには味がないことによって、その存在の説明が十分ではなくなるのだ。

そういったキワノの味の曖昧さを逆手に取る方法がある。人に魅力的にキワノを説明する際、「食べ方が未開発の野菜なので、ぜひ食べ方を考案して教えてください」と伝えることを編み出したのだ。そしてその提案はレスポンスも良い。これまでに頂いたレシピの一部を紹介すると、
・アイスクリームと共に食べることで甘みを加え、種の食感を楽しむ
というものや、
・(メロンのように)生ハムと共に食べる
といったものなどがある。キワノは舌の想像力を掻き立てるにはちょうど良い。 しかし、この果肉が水分貯蔵が目的とするなら、味のなさにはとても納得がいく。キワノは人間が味を求める前に、砂漠の多くの生き物にとっての水分源なのだ。これはトゲの特徴と共に、サボテンに似る。

ゼリーと種を包むキワノの皮はビタミンCと食物繊維が豊富だという。そのため皮を食べる人もいる。 注意すべきは食用以外はククルビタシンという毒が含まれていることがある点だ。これは他のウリ科にもよくある毒性だ。苦味を感じたら無理をしてはいけない。我慢して嘔吐や下痢等の食中毒にならなくても良い。 とにかくキワノを食べるのであれば、その味がぼんやりとしていることを確認して欲しい。もしくは食べずにひたすらその造形を楽しまれても良い。キワノは砂漠地帯に想いを馳せるには十分な生き物だ。

2024.11.9 野咲タラ

この度の『コアラVSキワノ』キワノ付き小説の再販に寄せて書きました。


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