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平均台でスキップするわけにはいかない。レビュー【小さい本屋の小さい小説:かとうひろみ】

唐突ですが、読んだ本のレビューをしたいと思い立ち、筆を走らせています。いや、キーボードを叩いています。今回はかとうひろみさんを知らない方、もしくは知ってるけど本は読んでいないぞ!という方向けに、かとうひろみさんの魅力を本のネタバレをしないようにしながらレビューを書きたいと思っています。ただし、一部の方を除いてお近くの本屋では売っていない本ですのでそこはご注意くださいませ。

まずは本日ご紹介するかとうひろみさんの本はこちらです。

まずこの写真をご覧ください。あまりに表紙のイラストのぱっと見が素敵なために大人の恋愛小説が一瞬頭をよぎりますが、残念ながらその印象は一話目から打ち砕かれます。このご本人の紹介文に「ダークマター」とあったり、「怖い未満が一番怖い」とのキャッチが書かれているように、何やら不穏な雰囲気が漂っている事は感じていただけるのではないでしょうか。

この本の印象を例えるなら、例えばこんな感じでしょうか。

人生は思い通りまっすぐにうまくいくわけではありません。だからこそ注意深く歩いていかなければいけないはずです。まるで平均台を歩くように。

でもつい人は忘れてしまいます。自分達は一歩踏み外したら落ちてしまうギリギリのバランスで平均台の上を歩いている事を。もしかしたらその平均台は高層ビルと高層ビルの間にあるかもしれないのに。人はできるだけ明るく楽しく健やかに過ごしたいので、その恐怖を忘れようとします。恋人と甘い世界に浸ったり、趣味に没頭したり、お酒を飲んでしまったり。そしてその先に見える広くて大きな青い空に雲のようにプカプカ浮かぶことを夢見ます。だからこそ意図的に不安な足元の世界には目を瞑ります。

しかし、かとうひろみさんの作品は、聞こえるか聞こえないかの声で私達の耳元に問いかけてきます。

「ねえ、その平均台は幅が1㎝しかないよ?」

「ねえ、その平均台はこんにゃくだよ?」

「ねえ、その平均台は……ううん、何でもないよ」

私達はふと足を止めて、その足元の平均台を見つめます。そこに何が見えるかはその人次第です。かとうさんは、決してその答えを提示しません。

【小さな本屋の小さな小説】は12本の短編から綴られています。それぞれ違った味わいの不穏が丁寧な描写で書かれています。そこにあるのはリアルな舞台設定とリアルな感情です。だからこそ自分の現実とは全く違う世界なのに、隣にある日常を提示されたかのような親近感が湧きます。しかしその親近感が湧いたからこそ、そこに一滴垂らされた不穏がまるで自分事のように心に輪を描くように広がっていきます。

ちなみにこの本の表紙を見て欲しいのですが、このカップルはしっかりと抱き合っています。いや、抱き合っているように見えます。しかしこの二人はそれぞれ本を読んでいます。カップルは抱き合っているパートナーの事をどれだけ思っているかは全くわかりません。そのカップル各々が開いている本に書かれているのは、パートナーへの愛なのか、パートナー以外への感情なのか、それも全てこの本を手に取った方に委ねています。まるで「どう受け取るかはあなた次第ですよ」と、かとうさんに問い詰められているかのように。

本を閉じた後、取りあえず私は平均台をゆっくりと歩きたいと思いました。決してスキップなどせずに。

是非、一人でも多くの方がこの本を手に取っていただけますように。




ここからはネタバレになるかもしれないので文字を太くしてみます


この本の中でわたしが一番好きなのはタソガレ、遊園地、ポルトガル語教室です。それぞれ全く違う世界観なのですが、かとうさんのかとうさんらしさが随所に散りばめられています。読んだ方は、私はこの作品が好きだった~のようなコメント貰えるととてもうれしいです!


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