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「近所 Vol.2」一首選<4>

 2023年3月16日、文学フリマ東京35で発行した「近所 Vol.2」(通称:近所2)の中で、自分以外の作者ごとに1首ずつ選んで語ろうという回。
 その時に選ばれた歌と選んだメンバーのコメントを作者別に2名ずつ、計4回に分けて紹介します。

 4回目は、阿部二三さん、花江なのはさんの歌です。


阿部二三

あの夏の暑さと汗と砂埃まみれてもなお楽しさの勝つ

「近所 vol.2」P.11
  • 読む人それぞれの心にもあるであろう「あの夏」へと、一瞬にして連れ戻してくれる。(花江)

すっぽりと我におさまるその体ぎゅっと抱きしむぎゅうと抱きしむ

「近所 vol.2」P.34
  • すっぽりとおさまるのは今だけだと知っているから「ぎゅっ」だけでなく「むぎゅう」と再度抱きしめる母の気持ちにとても共感できました。(大住)

そうかもうあの人たちはラーメンをちゅるちゅるとは呼ばないんだね

「近所 vol.2」P.34
  • 子供のためにインストールした言語が、大人には染みついているのに、子供の方はあっさり手放して成長していく。せつない。「みいつけた!」のEDで使われていた「グローイング アップップ」という歌がすごく染みるのだけど、あんな気持ちになる。(本条)

「あ、そう!」「なんでもいい」と突っぱねる娘が着ているドラえもん柄

「近所 vol.2」P.34
  • 思春期やら反抗期やらの入り口にいる子どもを温かく見守る、一歩引いた視線が効いている。(黒澤)

プップッと病室に響く心電図モニター音が生を知らせる

「近所 vol.2」P.35
  • 無機質なモニター音が生きていることを知らせる。静謐な描写により、深い悲しみが伝わってくる秀歌。(小林)

天国にかかる電話があればなと少し笑って父はつぶやく

「近所 vol.2」P.35
  • 一連の歌は印象的で覚えている。大切にして読み返したい歌。(宮原)

そこだけはその時のままを切り取って母の肉筆尚ここにあり

「近所 vol.2」P.35
  • 自分の近親者が旅立ってしまったとき、こう感じることがあるんだろうなと気付かせてくれた歌で好きです。(散田)


花江なのは

熱湯を注いで5分待つときのご当地麺の故郷が遠い

「近所 vol.2」P.12
  • 5分という短くて長い手持ち無沙汰な時間と、行けそうで行かない故郷の遠さがリンクするような一首。故郷にいた頃は、友人とふらっと立ち寄っていたラーメン店なのかもしれない。それが商品として目の前にあって、今、一人で食べようとしている。「何か違うんだよな」みたいな感情もあるのかも。(本条)

暑いのは気のせいじゃない この街でぼくが手にしたボクで着ぶくれ

「近所 vol.2」P.12
  • 小説でも始まりそうなストーリーを背景に感じる歌で好きです。こういう歌を書けるのがすごい。(散田)

  • 見えない景色を見せてくれる。若い時に無理して居場所をつくっていた感じを思い出した。(黒澤)

  • 同じテーマを言語化しようとしていましたが、出来ずでした。なのでこれを拝見した時は衝撃でした!「ぼくがボクで着ぶくれ」ている所がすごいです。(大住)

  • キャラを演じている自分は時々着ぐるみを着ているような苦しさを覚える。着ぶくれという把握が秀逸。(小林)

私には二枚目だけが送られてあなたの遺書の筆圧を読む

「近所 vol.2」P.21
  • どういう状況なのだろうと想像を巡らせて何度も読んでしまう。(宮原)

校庭の金木犀が降る角をするり抜けてく古紙回収車

「近所 vol.2」P.21
  • 映像が浮かぶほど綺麗で、情景を美しく詠めるようになりたいなぁとあらためて思わせてくれた。(阿部)


 普段の活動から意見交換をしていますが、こういう場を設けたことで、自分の歌の良いところ・ひとの歌の良いところが改めて発見できるよい活動時間になりました。


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 11月11日(土)の文学フリマ東京37に出店します。
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